リクSS『異性愛者の自覚のあるガウェインがぐだおくんのふとした仕草に勃○してしまうガウェぐだ♂』




 ながく捨て置かれた様子の小屋は、一歩すすむ度に床板が軋んだ音を立てる。さいわい床が抜ける程には朽ちてはいないようで、ガウェインは隅まで床を確かめた後に、入り口で待つ立香を部屋へと招き入れた。表情は幾分やわらいだものの立香は青褪めた顔色のまま、手を引くガウェインに従っている。疲れきった様子が痛々しく思えて、ガウェインは眉間の皺を深くした。

「嵐が過ぎるまでここで待ちましょう。その間に通信が回復するかもしれません」
「うん、そうしよう。……休める所があってよかったよ、外で吹きさらしはきついもん」
「ええ、まったくです」

 室内に落ち着いた立香へ微笑みかけてから、ガウェインは窓辺に寄りあらためて外の様子を窺った。汚れきった硝子には雨粒が激しく叩きつけて、ぼんやりと滲んだ木の陰も狂ったように枝を揺らしている。窓枠の隙間から風は吹き込んでくるものの、屋外よりはずっと居やすい場所だろう。
 エネミーの攻撃により同行の者達と分断されてから、半日は経つだろうか。こういう時に限って不運が重なるもので、カルデアとの通信は切れる、急激に天候が悪化して嵐に巻き込まれるなどと次々と散々な目に遭った。マスター・立香の体力も心配になってきた頃合いで雨宿りできる小屋が見つかったのは、不幸中の幸いと言えよう。

「あーあ、礼装もびしょ濡れだ。これ脱いで乾かしたほうがいいかな」
「その方がよろしいかと。体が冷えては更に体力も消耗しますので――ああ、暖炉がありますね。火を入れれば少しは暖まるでしょう」
「うん、ありがと」

 そう礼を言って、立香は胸元のベルトへと手をかけた。シュルシュルという布擦れの音を背後に、ガウェインなにか燃やせるものがないかと室内を物色していく。そのうち小屋の奥で無造作に散らばる藁を見つけて、いくつかの束を手に取った。藁の他にも朽ちた小屋の破片と見える木片があり、これなら燃料に困ることはなさそうだ。どちらも湿気ってはいるが、火を扱えるガウェインであれば、問題なく燃やすことができる。
 簡素な暖炉だったが、これでマスター・立香が凍えることはなくなるだろう。ガウェインは小さな幸運に感謝しながら、暖炉に火を入れ木片をくべてやった。ぱちぱちと音をたて素直に燃えはじめた火は、冷え切った皮膚へじんわりとした熱を届けてくる。火が安定したのを確認してからガウェインは立ち上がり、立香をそばへ呼ぼうと後ろへ振り返った。

「マスター、暖かくなってきましたので、こちらへ――」

 しかし、続く言葉はいつまで経っても出てくることはなかった。ゴクリと上下した喉と共に、言葉もはらの奥へと嚥下されてしまったからだ。
 ガウェインの視線の先――立香は窓辺の薄明かりを背にして、礼装の下に着たインナーを解いて腕から抜いていた。黒い布は水気のせいでぺたりと肌に吸い付いて、ぬるりと皮膚を舐めるように滑っていく。そのさまはいつもの彼からは考えられないほどに、愛欲的であった。上半身を全て脱ぎ去ってしまい、立香は濡れた髪をもどかしげにかきあげる。スローモーションをかけたかのように、床に散らばる雫さえ見えるようで――ガウェインはまた喉が干上がるような心地になった。

「うわぁ、さっむい! だんろだんろー!」

 あらわになった皮膚にぶるりと鳥肌を立てて、立香は慌てたようにガウェインのもとへ駆け寄ってきた。見てはいけない物を見てしまった気がして、ガウェインは思わず目を背けてしまう。そっと横目で様子を窺うと、彼は特に変わった様子もなく弾ける火に両手であたっていた。あたたかな火にさらされて、彼の肌がすこしずつオレンジ色に染まっていく。そうしてある時、黒髪の先からつうと一筋の雫がうなじに落ちて……ガウェインは思わずそこへむしゃぶりつきそうになった。

「わ! ガウェイン、どうしたの?」

 その途端、立香は驚いたように肩を跳ねさせた。何事かと後ろを見ると、立香の視界にはふわふわとした毛皮――ガウェインが身につけていた外套の端が飛び込んでくる。不思議そうな顔をして首を傾げる立香に、ガウェインは曖昧に微笑んで背中を向けた。
「失礼を――私は危険がないかあたりを確認してまいります。まだお寒いでしょうから、どうぞ外套をお使いください」
「でも……」
「私はサーヴァントですから、体が冷えることはありません」
 いちど渋りはしたが、立香は素直に納得して外套を体に巻きつけた。
――今まさに、あるがままの少年の皮膚を、己の一部≠ェ包み込んでいるのだ。
 そんなことを考えてしまい、ガウェインはこの場所から逃げ出さずにはいられなかった。さいわいここには、焦ったように軋む扉の音を訝しむ者はいない。ざんざんと扉に打ち付けていた雨粒は今度はガウェインへふりかかり、彼の全身を濡らしていく。

「ああ――」
 しかし、その冷たさでもなければ、今にも気が狂ってしまいそうだった。腰を巻く鎧の奥で、不埒な衝動が首を擡げている。とんでもない罪を犯してしまったような気分になって、ガウェインは髪を雨に濡らしながら、か弱く首を横に降った。




END




(2020/05/21)



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