リクSS「にゃんぐだおくんがランスロットに懐いてしまったのであれよこれよとなんとかしてにゃんぐだおくんの気を自分に向かせようと頑張る飼い主ガウェインの奮闘」



 じっとりとした視線とは、こういう目つきのことを言うのだろう。
 べディヴィエールは友人――この部屋の主であるガウェインを一瞥して、小さくため息をついた。綺麗な形をした彼の双眸は、くしゃりと歪んで正面の男を睨みつけている。妙な緊張感が流れる部屋は居心地が悪く、流石に嗜めたほうが良いかと思い始めた頃、べディヴィエールの代わりというように、トリスタンが口を開いた。

「ガウェイン……いくらランスロットを見つめても、立香≠ヘ戻ってきませんよ」
「ぐっ……! しかし……!」
 痛いところを突かれたのか、ガウェインは苦しげな調子で唸った。反論の言葉も出てこないようで、眉を下げて口を噤む様子は、普段の彼からは想像もできない哀れさだ。流石にガウェインが可哀想に思えて、べディヴィエールは彼が睨みつけていた相手――ランスロットに視線を送る。
「ランスロット……そろそろ立香≠ガウェインに返してやったらどうです」
「む、しかしだな……こんなにぐっすり眠っては、動かすのも可哀想だろう」
「ああ、本当だ。猫とはこんなに伸びるものなのですね」
 ランスロットの膝を覗き込んで、トリスタンはのんきな調子で目尻を下げた。
 ソファに腰掛けた彼の膝上では、ガウェインの飼い猫である立香≠ェ、でろんと長くなって眠りこけていた。よっぽど安心しているのか、立香はお腹を上に向けて、ふさふさした毛の白黒模様を覗かせている。ランスロットに身体を撫でられるたび「ゴロゴロ」と小さな音を漏らして、機嫌がよさそうに体をよじっていた。

「前はランスロットの足音がするだけで逃げていたのに、すっかり懐きましたね」
「ああ、この前ガウェインが出張の時に少し面倒を見てね。おやつをあげたら慣れてくれたようだ」
 トリスタンは納得したように頷いて「私は羨ましい……」と小さく呟いた。
 確かに立香は食べることが好きなようで、こうやって仲間内で酒を飲むときは、いつもおつまみを欲しがるのだ。生ハムやチーズを用意したときなんて、延々と追いかけられたものだと思い出して、べディヴィエールはついつい笑いを漏らした。

「くっ……私が『にゃおちゅーる』を許可したばかりに……!」
 和気藹々とする三人をよそに、ガウェインは相変わらず悔しそうな顔で唸っている。
 詳しい話を聞くと、立香がランスロットを怖がらないようにと、普段は食べさせないおいしいおやつを特別に解禁したのだそうだ。そのおかげで立香が余計に懐いてしまったのだと言って、ガウェインは「かつお節フレークにとどめておくべきでした」と深く嘆いてみせた。
「そこまで立香に構って欲しいのなら、貴方がおやつをあげればいいのでは? そうすればすぐに飛びついてくるでしょう」
「……いいえ、立香は普段から食べ過ぎですから。塩分が多いおやつを再々与えたくないのです」
 その『にゃおちゅーる』なるおやつをあげれば、すぐ済む問題のように思えるが……べディヴィエールの提案に、ガウェインは首を横に振った。立香はいつもおやつを食べている印象があったが、どうやらそれなりに家庭の方針があるらしい。よくよく考えてみれば、食べ物で釣るのは飼い主として矜持に関わりもするだろう。
 しかし、それなら一体どうすればいいのだろうか――

「……面倒くさいですね」
「トリスタン!」
 心で思ったことを代弁されて、べディヴィエールは思わず声をあげた。ちらりとガウェインの様子を窺えば、ショックを受けた顔で肩を落としている。そんな飼い主をよそに立香はすやすやと眠っていて、ランスロットもどうすれば良いか戸惑っているようだ。
 ガウェインをどうやって慰めれば良いか、ベディヴィエールは考えあぐねて……とりあえず、目の前のパイント・グラスを空にすることに決めた。




END




(2020/02/02)



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