一滴の雫が、少年のうなじに垂れている。

 透明な水滴は、影が差した骨の窪みへと滴る前に、ローブの真っ白いタオル地へスウと消えていった。
 そのことがやけに勿体なく思えて、ランスロットは窓辺に立つ少年に歩み寄り、目に見えぬ水滴の痕へと唇を落とした。
 緊張したように跳ねた腰を、宥めるように抱いてやる。そうすると、彼はおそるおそる後ろへと振り向いて、ランスロットの様子を窺うように視線を上げた。
 深い青色の瞳は、いつもと違って何かを恐れるように潤んでいる。
 まるで海のような――いや、もっと静かで穏やかな、湖面のような瞳だと、ランスロットは菫色の双眸を細めた。そうすると、少年の頬にはさぁっと赤みが差していく。
 熱を帯びた視線から逃げるかのように目を伏せられて、ランスロットは僅かな落胆を覚える。その間も僅か、ランスロットはそっと少年――彼のマスターである立香の体を、後ろから抱きしめた。

「マスター……」
「んっ……!」

 囁くような吐息が耳にかかったのだろう、立香はみるみるうちに耳朶も赤くして、騎士の腕から逃げるように身を捩った。
 しかし、ランスロットもここで獲物を逃がすような男ではない。ランスロットは立香の体をやすやすと持ち上げて、彼が拒否をする間もなくベッドの上へと連れ去った。
 ベッドへ横たえた体に乗り上げると、不安げなまなざしで見上げられる。
 ランスロットは立香のことがとても可哀想に思えて、慰めるように彼の頬を撫でた。

 ああ、おかわいそうなマスター。私のような男に捕まってしまうのですね。

 するするとやわく頬をなぞっているうち、心地良かったのか立香の体からわずかに力が抜けた。その隙を見逃さず、ランスロットは親指で彼の唇を押し下げ、隙間から自らの舌を滑り込ませた。
 口づけの許可が必要だろうか? そんな逡巡も、指先に彼の唇を感じた瞬間に消えてしまった。んん、とこぼれた彼の吐息も、ランスロットの舌にとろりと掬われ、舐め取られていく。
 口のなかに何か『わるいもの』が入ってきたような、それとも少し気持ちが良いような、慣れない感覚に、立香はただされるがままだ。
 くんと鳴った鼻と、薄く上下する胸が、ランスロットの五感に立香がきちんと呼吸をしていることを伝えてくる。ランスロットは胸に燻った嫉妬心を、奥歯を噛みしめることでどうにか耐えてみせた。

 何度も死地を切り抜けてきたマスターであれば、経口での魔力供給も何度か経験があるだろう。きっとこのようにして、他の者と唇を重ねたこともあったに違いない。ただ彼が、相手をリードできるような手管をまだ身につけていないことだけが、ランスロットにとっては救いに思えた。
 それにこれは、無味な魔力供給などではない、マスターも同意の上の戯れあいなのだ。
 そう自分に言い聞かせながら、ランスロットはキスですっかりと赤く染まった唇に、またちゅうっと吸い付いた。

 そのまま、彼の首筋へと鼻先を埋める。深く息を吸い込むと石鹸の匂いに混じって、どこか潮の香りがするように思えた。
 備え付けであるバスローブの帯は、いとも簡単にほどけて、健康的に焼けた少年の肌をあらわにする。
 シャツを着ていたあとだろうか、首筋と二の腕に日焼けの境目≠ェ見て取れた。うっすらと焼けただけの胸部は、腕に比べて生白く見える。隠された場所を見ることを許された喜びに、ランスロットは首筋の境目≠労るようになめ上げた。

 ぬるりとした刺激に揺れた胸を、無骨な手のひらが撫ていく。そのうち、小さな粒が皮膚に触れて、ランスロットはもう一度そこを狙うよう手のひらを滑らせた。
 ふっくりと膨れた乳首は、慎ましやかな肌色をしている。
 指先で円をかくように縁をなぞったり、弾くように触れてやると、慣れない刺激に粒はツンと硬さをましていった。こすこすと両側を指で愛でてやると、立香は腰を浮かせて熱い吐息を吐いた。

「ランスロット……それ、なんかやだっ……あぁっ!」
「お嫌ですか? ……私は、マスターのここをずっとこうしていたいです」
「ひっっ! ず、ずっとなんて、だめだってぇっ……!」

 ランスロットはふくふくと赤く膨れてきたところへ、音を立てながら吸い付いた。グミのような弾力を唇と歯で味わうと、すっかりと心が満たされていくのを感じる。
 口では否定しながらも体を委ねてくれる主に、思慕の情は一層大きく膨れ上がっていく。
 菫色の髪へと差し入れられた指は、ランスロットを拒んでいるのか、それとも『もっと』と強請っているのだろうか? 後者であればいいと願いながら、ランスロットは立香の体からすっかりとローブを取り去って、そのまま彼の下着へと手をかけた。

 抵抗する暇も与えず下着を引き下ろすと、ゆるく勃起したペニスがふるんと姿を見せた。大人へと変わっていく途中の性器は、そろりと先端を伺わせて控えめに欲を主張している。
 ベッドに落とされたグレーの生地には、丸い染みがひろがって、そこからも芳しい魔力の匂いが伝わってきた。
 無意識に喉を鳴らしたランスロットを見て、立香はひっと恐れるように息を呑んだ。あまりに真剣に見つめてしまったので、きっと怖かったのだろう。ランスロットはできる限り優しげな表情を取り繕って、彼の性器をそっと手のひらで包み込んだ。

「……痛むようならば、お教えください」
「ッあ! ん、んん……だ、だいじょうぶだから……あぁっ……」

 ゆるゆると優しく手を動かすと、立香は眉を寄せて熱い吐息を吐いた。体を満たし始めた快楽を、どうにか逃そうと唇がわなないている。キスの名残で濡れたそこが蠱惑的で、ランスロットはまた彼に深いキスを繰り返した。
 ちゅるちゅる、ちゅくちゅくと、手元からも口元からも濡れた音が立っている。その音がどうも浅ましく思えて、立香は堪えるようにぎゅっと目を瞑った。
 しかし、恥じらっていても若い雄は快楽に弱いようだ。先端を出してくりくりと虐められれば、立香のペニスはすぐに先走りを零して震えだしてしまう。ランスロットが動物の喉を撫でるように亀頭の裏をくすぐると、精液を溜め込んだ陰嚢はギュウと痙攣して、限界が近いことを教えた。

「マスターっ……! どうか私にッ……!」
「ア゛ぁッ!? ら、ランスっ! だめ、口だめだって……! でちゃ、でちゃうからっっ! あ゛っっ、ああっ――!!」

 どうか私に、貴方の魔力(あい)を下さい。

 ランスロットは言い終えぬ間に、その口の中へ立香のペニスをおさめていた。
 ヂュウッっと吸い込むように喉で扱かれて、あまりにも強い刺激に立香は目を白黒させる。抵抗しようと捩った脚も、騎士の太い腕で押さえ込まれればさしたる動きもできなかった。
 立香はただランスロットが与える快楽に苛まれ、腰が蕩けるような感覚に浸るしかできない。低い体温をした男だと思っていたのに、ランスロットの咥内のなんと熱いことか。立香は声にならない唸りを漏らしながら、濃く粘ついた精液を騎士の口の中へと放った。

 ランスロットは陶酔した表情で、主が放った魔力を飲み下していく。一滴一滴がかぐわしく思えて、ランスロットは舌に雫が触れるたび、一際つよく立香のペニスを吸い扱いた。 まるで睾丸の中の精液まで求められているようで、はらのなかが引き出される感覚に立香の肌にはぞくんと鳥肌がたつ。
 体を押さえ込んだ手で彼の尻を揉みながら、ランスロットは名残惜しそうに立香のペニスを開放した。
 すっかり性を絞られて、くたりとなってしまった性器が可愛らしく、離れる前に先端へちゅっと戯れのキスを落とす。そんな小さな刺激も立香には激しく響いて、たまらないと言うように、つま先がシーツを掻いた。

「は、ぅ……らんす、ぁ……」
「マスター、ああ……なんとお可愛らしい……」
「んぁ……、う……」
「どうかそのままで、このランスロットに貴方を隅々まで愛することを、お許し下さい」

 深い青色の瞳は、まるで曇り空をうつしたかのように、快楽に濁っている。
 ランスロットは立香が前後不覚に陥っていることを理解しながらも、行為を止めることはしなかった。また舌を滑り込ませて口づけをすると、青臭い苦味に立香は眉をひそめる。まるで彼自身の精液を味わわせるように舌同士を擦り寄せながら、ランスロットは密やかに閉じた尻のあわいを指で押し開いた。
 固く筋肉がついた弾力を楽しみながら、一番奥の窪みを露出させる。普段空気に触れることのない場所はランスロットの視線を受け、恥じらうように暗い肉色をひくつかせた。

 この慎ましやかな場所で、私を包んでいただきたい。

 ランスロットは逸る心を嗜めながら、日焼けの保護に使っていたオイルを手にとった。手のひらに滴った油が、小麦色になったランスロットの皮膚をてらりといやらしく艶めかせる。
 きっともう、このオイルを本来の用途で使うことはないだろう。使ってしまえば、今夜のマスターの痴態を思い出して、勃起してしまうに違いない。
 そんな風に考えながら、体に障らぬように手で温めたオイルを、彼の後孔へと塗りつける。
 くぷくぷと爪先で孔を伺うと、あらぬところを弄られる感覚に立香は逃げるように足をばたつかせた。

「ランスロットっ……! そこは、ぅあっっ……!」
「痛いようにはいたしません。マスター、どうかこのまま……」
「あっ! はいって、んんっ……! あ、あ」

 枕の方へずり上がった腰を捕まえて、ランスロットは立香の体を手元へと引き下ろした。その勢いを借りて人差し指を奥まで差し入れれば、あたたかな肉がランスロットの無骨な指を包み込む。やわらかくうねる内壁の感触に、ランスロットはこれだけで射精してしまいそうな心地になった。
 ガチガチに勃起した己の欲望を宥めながら、狭い孔を押し広げるようにぐ、ぐ、と内壁を押していく。腹の中をまさぐられる感覚が気持ち悪いのだろうか、立香は助けを求めるようにランスロットの腕を引っ掻いた。

「んん、なか、変なかんじが……う、うううーっ……」
「お労しい……私の肩へ、つかまっていてください」
「あ、ランスっ……らんすぅ……」

 優しげに聞こえても有無を言わせぬランスロットに、立香は翻弄され言われたとおりにすることしかできない。肩にしがみついてきた立香を空いた腕で軽々囲いながら、ランスロットは彼の内側を探る指を増やしていった。
 オイルの滑りを借りているからだろうか、彼が苦痛を感じている様子はない。

 それとも……もしかすると、こうして異物を受け入れた経験があるのだろうか――

 ランスロットは浮かんだ考えを噛み殺して、指を包んだ内壁の感触に神経を巡らせた。
 周囲と違う手触りの場所へ触れるたび、立香がもどかしそうに脚を動かしていることに、ランスロットはとっくに気がついていた。親指を使って会陰の肉も捏ねてやれば、一層悲痛な息が漏れて、彼が何かを感じていることを伺わせる。
 彼が己の手で快感を得ていると思えば、沸き立つ喜びは何よりも甘く感じられた。

 マスターの敏感なところへ己の猛りを押し当てて、十分に愛して差し上げたい。
 とうとう我慢が効かなくなって、ランスロットは身につけていたローブを乱暴に脱ぎ捨てた。

「ひあっ、ランスロ、ット……? っっ!」

 あらわになった騎士の体、小麦色の肌に浮かぶ鍛え上げられた筋肉の影に、立香は言葉を失って喉を鳴らした。きっと彼には、浅ましく勃起したランスロットの逸物も、はっきり見えていたのだろう。
 さっと朱みがさした頬には、わずかばかりの期待≠ェ浮かんでいるように思えて、ランスロットはちくちくと胸が痛むのを感じた。

 彼の体を覆い隠すように上へのしかかって、小さく震えていた唇へキスを落とす。その薄い皮膚が触れ合うか触れ合わないかのところで、ランスロットは立香の慈悲を乞い願った。
 その答えの代わりとでも言うように、立香が唇へ吸い付いてきて、ランスロットは一際強く高揚した。
 ほっくりとほぐれた孔へ先端を押し当てて、立香が息を呑んだのにも構わず、奥へと腰を進めていく。「ああ……」と思わず溢れた陶酔の吐息に、立香はぞくぞくと肌を粟立てて、騎士の欲に微かな恐れを抱いた。

「あ゛あっ! 奥、一気に入れたら……! ひいっっ、キツっ……!」
「申し訳ございませんっ……! どうにも加減が、できずっ……!」
「んあっっ、はいっちゃ、ああっ!! らんすっ、ぃあ゛あっ!」

 めりめりと体の奥をこじ開けられて、立香は苦しげに目を見開いた。きちんと目を開けているはずなのに、頭がとろけているせいか、視界にはランスロットの姿がぼんやりうつるばかりだ。
 背中にきつく爪をたてられたが、ランスロットの神経には痛みよりも快楽が勝ったようで、びりびりとうなじが痺れるような感覚に苛まれる。

 深いところまで猛りを沈めこんで、とろけた内壁が絡みついてくる感触に、ランスロットは熱い息を吐いた。
 合わせた胸からは彼の心音が伝わり、吐息のひとつ、ひくりと震えたつま先の動きまで、すべてを分かち合っているような心地がする。ふわふわと宙に浮かんでいるような高揚感で、体が満たされていくようだ。
 ランスロットが甘えるように腰を押し付けると、奥の気持ちいいところに当たったのか、立香はきゅうと内壁をうねらせた。

「マスター、ああ……とても心地が良いです……」

 夢を見ているような甘い声を聞いて、立香は体の奥からじゅわじゅわとあたたかい何か≠ェ溢れているような気持ちになった。
 ゆさゆさと優しく揺さぶられるたび、あふれ出た何か≠ェ体の内側で揺れて、ペニスを慰めるだけでは味わえないような快感が広がる。気がつくと強請るようにランスロットの腰へ脚を絡めていて、騎士の男根をもっと深くに迎えようと、彼の体を引き寄せていた。
 無意識に男を求めた仕草を見て、ランスロットはぐっと奥歯を噛みしめた。
 きっとそれで、理性の糸が切れてしまったのだろう。優しく抱こうと思っていたことなどすぐに忘れて、ランスロットは立香の腰を掴み、ただ激しく彼の肉壁を突き上げ始めた。

「あ゛あ゛っっ! 激しっ、ぃあ゛あっ! らんすっっ、も、やさしくっっ……!」
「ぐ、うぅっ……マスター、マスターっ……! あぁ、わたしのりつかッっ……!!」
「い゛っ! あああ゛、ら、ぁっ……」

 ランスロットに激しく腰を打ち付けられるたび、硬く張りだしたエラで気持ちが良いところを擦りあげられる。ぞりぞりと内壁をこそげるように動かれると、立香はもう中で感じる暴力的な快楽に、身を任せることしかできなかった。
 騎士の肩へ腕を回しても、噴き出した汗で滑ってしまいうまく捕まることもできない。つるりと滑った腕を何度目かで捕まえられて、ベッドに強く押し付けられた。
 体も一切動かせない状態で、逞しい男根を出し挿れされて、『自分がランスロットに愛されるだけの人形に成り果ててしまった』というような錯覚すら抱いてしまう。

「立香、リツカっ! 愛しております。たとえ私が、貴方の唯一でなくともっ……」
「ぁ゛、だめだ、いくっ……! ランスロ、ッ、おれ、あ゛あ゛っっ! ぇ、……け――」

 一層奥へ亀頭を押し付けられて、ピクピクと震える幹に立香は「中出しされる」と直感的に悟った。
 ランスロットはせめて愛おしい人に種を残そうと、立香の体の奥――子宮にかわる場所へと先端をねじ込んだ。
 熱い飛沫を置くに叩き付けられて、立香は射精もせずに深い絶頂に体を委ねている。だらんと垂れた舌すらもランスロットの舌に掬い奪われて、激しいキスイキに頭は真っ白になってしまった。

 陰嚢のなかすべてを出し切ろうとでも言うのか、ランスロットは長く長く射精をしてなお、立香の体で雄を扱き続けた。甘い痺れに浸っている体を抱きしめて、立香の奥を自分の色で塗り替えようと、内壁に精液を擦り付け続ける。
 精液が外へ流れ出ることも許さないとでもいうように、ランスロットは立香の体へ自身の男根を埋め込んだまま、ずっと彼を抱きしめていた。

 愛しい人と体を重ねた喜びはあっても、一時の夏に踊らされなければ遂げられなかった自身の不甲斐なさが影を落とす。

(平時でも思いを伝えられる甲斐性があれば、他の男にマスターの純潔を奪われずに済んだのだろうか)

 そんな暗澹とした気持ちを振り払うように、ランスロットは立香の首筋へ甘えるように歯を立てた。

(せめて、このひとときを忘れずに、マスターと戯れあったことを心の支えにして生きていきたい)

 そんな風にランスロットが考えていることなど、立香は知る由もなく――また『その願いすら数日後には消え去ってしまう』ことを、当然ランスロットが知ることもないのだった。




END



(2019/10/20)




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