ルフィの体重を受けて、ベッドのスプリングはぎしりと音をたてて撓んだ。
 恋人をいわゆるお姫様だっこ≠ナベッドに運ぶだなんて、一見ロマンティックに見えるかもしれない。しかし、ローとルフィの間となれば勿論そんな色気とは無縁で――ローはただ、足を怪我したルフィを運んでやっただけなのだった。

 風呂上がりのほわほわと上気した体温は、ルフィの周りの空気をほんのすこしだけあたためている。ローは下着だけを身に着けた格好のまま、ベッドに寝転がったルフィのもとへ跪いた。
 おざなりに拭いただけの髪は、まだ水滴を含んでいる。早く乾かさなければ風邪をひいてしまうかもしれないが、大抵ローの中の優先順位は自分よりもルフィが上だ。かまうことはない。
 見かけによらず、つくづく年下の恋人に甘い男だ。
 そんな様子のローをよそに、ルフィはもぞもぞと右脚を動かしている。
 とは言えど、足首はがっちりと固定されているので思うようにいかず、居心地悪げな様子だ。

「こら、動かすなっていっただろ」
「だってよぉー、なんかむれてきもち悪ィんだ」

 そう言って、歯がゆそうにあしゆびを動かすルフィ。その様子を見て、ローは小さくため息をついた。風呂に入っている間、水滴が入らないようにがっちりとテープを巻いていた足。すこしだけ湿り気を含んだそれを、ローはするすると器用に外していく。

「お前が人の言うことを聞かねェから怪我したんだろ、ぐだぐだ言うんじゃねェよ」
「むー! これぐらいほっといても治るだろ!」
「へェ? 医者に向かって随分な言いようだな」
「いてっ!」

 右脚首に軽く触れられただけで鈍い痛みが奔り、ルフィは顔を歪ませた。医者というだけあって、どこにどう力を入れれば痛いかも、全部わかっているというのだろうか。そう思いなして自分の減らず口を少しだけ省みる。
 おとなしくなったルフィを見て、ローは僅かに目を細めた。
 まるでルフィを褒めているかのような優しい視線だ。今痛いことをされたばかりなのに、何故かどきどきしてしまって、ルフィはそんな胸の内を誤魔化すように唇を尖らせる。
 そんなうちにローはルフィの足の包帯を手早く換えていった。少しふやけてしまった足をタオルで拭われて、その優しい手つきがルフィにはむずがゆい。

 ばたんとベッドに倒れ込んで『はぁー』と大きくため息をついたルフィ。その姿を見ても、ローは特に顔色を変えることもなかった。今日は大分はしゃいでいる様子だったし(なにせその結果足を怪我したのだ)やっと疲れが出たんだろう、なんて気に留めることもない。
 ローは自分の髪を拭いて、今度はルフィの髪を拭いてやりながら、ルフィを愛している小さな船医に思いを馳せた。
『トニー屋のいねェところでこいつを治療するのは気が引けるな』なんて思いもするが――怪我をしたルフィを前にして、何もしないなんてことは医者としてできなかった。今回ばかりは許してほしい。

 今日から明日にかけて、ルフィはローの船に泊まりに来ている。
 とはいえ、ポーラータング号の船内に留まることはほとんどなく、ローはルフィの冒険≠ノつきあわされる羽目となっていた。そのなかでルフィは右脚を怪我してしまったのだ。  ルフィの右足首は赤黒く腫れ上がって、じんじんと熱を持っている。
 数日で良くはなるだろうが、腫れがおさまるまでは歩かないほうが良い、というのがローの(医者としての)見分だった。
 冒険の途中であったのに、ローに無理やり連れて帰られたルフィは、大層ご機嫌斜めといった様子だったが――夕飯をたらふく食べたおかげで機嫌は大分と治ったようだ。必死で働いてくれたコックには頭が上がらない。
 食事の際に、怪我を気にしたローが『サニー号に帰るか?』と尋ねたものの、ルフィは首を横に振ったため、当初の予定通り今夜はローの部屋で泊まることとなった。
 そうして就寝前、ローとルフィは一緒に風呂を浴びてきて――話は冒頭へと立ち返る。

 比較的小柄な方であるとは言え、ルフィはもうすぐ成人男性になる年頃だ。均整が取れた筋肉に覆われた体は存外に重く、風呂に入れてやるのは骨が折れた。
 ローは疲れをにじませるようにため息を付きながら、ルフィの隣へとベッドの上に乗り上げた。
 軋んだスプリングとともに、ルフィの体が傾く。その力に引っ張られるかのように、ルフィはころんとローの方へ向き直るように転がる。

「明日になったら、トニー屋に連絡してやる。大げさな傷じゃあねぇが、船医なら診ておきてェだろ」
「おう、わかった!」

 そういってルフィは、頬の片側をベッドにつけたままはにかむように笑った。
 ローがこういうことを言う時、ルフィは嬉しくなって仕方がないのだ――自分だけではなく、一味の皆を慮ったような物言いをするときには。

 ふふふ、と含むような笑顔を見せるルフィ、はらりとベッドに散らばった髪には、どことなく色気がある。
 その姿を見れば、妙にどぎまぎしてしまって、ローはごくりと喉を鳴らした。自身の奥底に芽生えたよこしまな気持ち≠振り払うかのように、目を伏せて軽く首を振る。

 何を考えているんだ。麦わら屋は怪我をしているのに。

 そんな自制の声を心のなかで繰り返しながら、ローはばつの悪さを誤魔化して、ベッドに寝転がった。足元の方にけって≠オまっていた上掛けを手に取り、ルフィと自分の体に掛けてやる。
 その様子を見たルフィはきょとんと目を瞬かせた。

「なんだよ、もう寝ちまうのか?」
「ああ、別にやることもねェだろ」

 そういってローは、ルフィに背を向けるように寝返りをうった。
 きっとルフィは遊び足りないのだろう、背中に恨みがましい視線を感じるが、わざと無視をする。早いところ眠ってしまおう、そうすればルフィも諦めるに違いない。そう高をくくって、ローは目を閉じた。  後ろではもぞもぞとルフィが動く気配がするが、そのうちに眠ってしまうであろう。そんな風に思っていたのだが――
 
 不意に腕に触れた指先の感触に、ローは勢い良く目を開いた。
 するすると腕の先へ伸ばされた指先は、何かをねだっているかのように、甘やかさを滲ませている。そっと手を握りこむように掌を重ねられて、ローは心臓の鼓動がうるさくなるのを感じた。

「トラ男……今日はしねぇのか?」
「っ……」

 きっと無意識だろうのに、ルフィの吐息は欲情した体の熱を含んでいて――ローの奥底にも、ちいさな火が灯り、じわじわと燻っていく。

「なぁ、してぇよ、トラ男……」

 すりすりと背中にすりよってくる感触、頬の柔らかさに、ローは上着を着なかったことを後悔した。
 こんなことを言われて、煽られないはずがない。
 本当はすぐにでも押し倒して、ぐちゃぐちゃに抱き潰してやりたいが――ルフィの怪我を思うとそうはできなかった。
 きっと無理をさせてしまうだろう。行為に支障がある場所ではないが、快感を逃すときにルフィは足でベッドをかき乱すことがある、そんな時に右足をさらに痛めてしまっては可哀想だ。
 何度も何度も自制を繰り返して、誘惑を振り切ったローは、やっとのことでルフィの掌を振り払う。

「今日はしねぇ」

 ふい、と顔を背けた(ふりではあるが)ローに、ルフィは不服そうに声をあげた。
 さっきのたおやかさが嘘であるかのように、こどもみたいにローの背中をどんどんと叩いて、不満を訴えている。

「えーっ! なんでだめなんだよ!」
「なんでもだ! いいから早く寝ろ!」

 そうやって反論をシャットアウトするローに、ルフィはさらにへそを曲げた。
 ぶうぶうとひとしきり文句を言って、ようやく溜飲が下がったのかと安心したが――しかし、やはりルフィは納得していなかった。

「なんでだよぉ、おれはトラ男としてぇのに……」
「てめェ……」

 しゅんとしおらしい声でそんなことを言われて、喜ばない男がいるだろうか? (このエロガキ……!)と到底恋人に言うようなものではない文句を浮かべながら、ローはぎりりと歯を噛み締める。
 しかし、ここで手を出してしまっては、今までの我慢も水の泡だ。ローはようよう声を絞り出して――ルフィのことをつっぱねた。

「そんなにしてェなら、一人でやってろよ」
「むーっ」

 取り付く島もない言葉に、ルフィは一層不満げな声を上げた。
 しかし、その後はすっかり黙り込んでしまっって、その様子に、ローは小さく息をつく。
 やっと諦めてくれたか、安心したように自分の腕を枕にしながら(こうすると肘から先がしびれてしまうのだが)ゆっくりと目を閉じる。
 べつに、今日だけしか会えないわけではないのだ。それなら、無理に体を交わさなくてもいい。
 そんな、ある意味殊勝な気持ちで誘いを突っぱねたローだったが――一方のルフィは、そんな風に納得することはできなかったようだ。
 
 じっとローの背中を見つめるルフィ。
 その瞳はじっとりと恨みがましかったが、ある瞬間、まさに瞬く間に纏っている空気が変わった。
 ゆっくりとシャツのボタン(ローの部屋にはルフィの着替えが数着置いてある)を外して、するりと肩から布を落とす。その音を耳にして、ローは怪訝そうに閉じていた目を開いた。
 一体なにをしているのだろう? 浮かんだ疑問に答えが出る間もなく、ルフィの行動にローは固まってしまった。

 ふに、と背中に押し付けられた柔い感触、ほかの肌よりもぺたぺた≠ニしたさわり心地のその突起が、何であるか理解するのに、時間はかからなかった。

「はぁ、んっ……」

 ルフィはローの背中に、ぷっくりとたちあがった乳首の先をこすりつけて、そのぴりぴりとした快感に浸っていた。
 まるでその先にゆるい電流を流されているかのようだ。ローの背中と先端の間に指を滑り込ませて、すりすりとこすると、もっと気持ちが良くなる。しかし――どうしてもローの背中に擦り寄せるほうが心は幸せで、ルフィはぐっとローの体を抱きしめると、すりゅすりゅと甘えるかのように体を擦り付けた。
 はぁ、と陶酔しているかのような吐息が漏れて、その色香にローは背筋を粟立たせる。

「あぁっ、とらお……とらおぉ……」
「っ……」

 ギリリと歯を食いしばって、ローは自分の中に湧き立つ衝動を押さえ込んだ。
 まさか『一人でやってろ』とは言ったものの、本当にそうするとは思わなかった。ローは自分の放った言葉を少しだけ後悔する。
 ――いや、後悔する必要など無いのかもしれない。この状況は、ローにとっては最高のオカズ≠ネのだから。普段はそんな素振りを見せない恋人が、自分をオカズにして、自慰に耽っている。そんな状況を見て、悦びを覚えないなんて男ではない。
 ロー自身もそうではあったが――発端も自分の言葉であれば、ローの行動を縛るのも自分の言葉だ。あれだけ誘われても袖にしてきたというのに、ルフィが痴態を見せた瞬間態度を翻しては格好がつかない。

(クソッ……今すぐにでもぶちこんでやりてェ……!)

 そんな穏やかではないことを思いながらも、ルフィの方へと振り向くことはどうしてもできなかった。
 その間にもルフィはヒートアップしていて、ローの背中に体をすり寄せながら、背の中心にある入れ墨へと唇を落としていた。
 夢を見ているかのように、黒色の跡をなぞる指先が艶めかしい。

「トラ男、すき……すきだ……」

 そういって何度も背中にキスをして、尖らせた舌で入れ墨を舐めてくるのだからたまらない。いつも愛撫はローがする一方だったが、それを覚えていたというのだろうか? ぞわぞわと雄の本能を刺激するルフィの行動に、ローの昂ぶりは一層硬さを増していった。

 しばらくすると、くちゅくちゅという水音が響いて、ローははっと息をのんだ。背中の後ろ、腰のあたりでは何度も手が上下しているような気配を感じる。

「あっあっ、きもちい……は、ああっ」

 自身の性器を扱いてあられもない声を漏らすルフィ、その姿を想像するだけでたまらない。
 ルフィはローに教えられたとおり指を動かして、自分を慰めていた。
 くるくると亀頭を優しく撫でて、ぽってりとした淫肉を露出してやることも忘れない。自分でしているというのに、やり方はローに全て教わったと思えば、自分の指先にローのそれが重なっているように思えるから不思議だ。
 掌全体で竿を扱いて、指先で亀頭を虐めると、腰がびくびく震えてしょうがない。もう片方の手で、陰嚢を柔く揉んでやれば、射精したいという欲はさらに高まって、先走りがびゅくびゅくあふれていく。

 そんなルフィの痴態を背に、ローはガチガチになった雄の印を持て余していた。
 挿れたい、はやくルフィの柔らかな肉壁にこの昂ぶりを擦り付けてやりたい。
 そんな衝動を押さえつけていると、何もしていないというのに、ローの雄からはとろとろと透明な液が漏れ出している。

(ああ、勿体ねェ……)
 この先走りだって、本当は麦わら屋の体に溶けるはずだったのに。

 そんな風に思ってしまう頭は、もう使い物になってはいないだろう。
 左腕はがっちりとルフィに掴まれている。ローは枕にしていた右腕を、そっと枕の下から引き抜いた。ルフィの声に浮かされるように、ゆっくりと自身の雄へと手をのばす。

「っ、くっ……」
「トラ男、おれ……あっ、ひっ……」

 切なげな声は一層ローの快感を増す材料となった。ぐちぐちと音を立てながら、ローは自身の雄を扱き始める。その気配にルフィは気付いているだろうか? 
 背中を向けているローには知ることができなかったが、ローが自身を慰め始めた気配を感じて、ルフィは安心したように顔を綻ばせていた。
 きもちいいのが自分だけじゃなくなって、うれしい。
 そんな事を考えながら、性器を扱く手を一層激しく動かすと、更に気持ちよくなって、心も満たされてたまらない。ルフィはローの背中にぺったりと頬をくっつけて、いじらしく恋人の体温を感じようとした。
 その柔らかな感触に、ローも一層雄を扱く手に集中してしまう。ルフィは未だに乳首をローの背中にすり寄せているのだ。そのあられもない姿を想像しながら、そしてゆるく握った手が、ルフィの尻穴のなかであると想像しながら、竿を扱き、亀頭をするすると刺激する。

 足りない、麦わら屋のナカでなくては満足できない。

 そんな風に思いながらも、触れれば快感は生まれるのが男の浅ましさだ。
 そんな間にもルフィの限界は近づいているようで、グチュグチュになった竿はぽってりと充血してきていた。きもちいい、きもちいい、頭のなかではそんな言葉が繰り返される。
 しかし、体の中心にぽっかりと穴が空いたような、そんなさびしさも感じていた。
 
 はやく、はやくトラ男と繋がりたい。ふたりでなければ、本当に満たされることはないんだ。

 その思いを誤魔化すかのように、ルフィはローの背中へ体をすり寄せる。痛みすら感じる力でぎゅうとローの体を抱き寄せて、まるでそこからひとつになろうとしているようだった。

「あっ、くぅっ……ああっ、とらお、とらおぉ……おれ、ちくびもちんこもきもちいっ……」
「っ……ばかなこというんじゃねぇ、くっ」

 ルフィが放った淫語に、ローはようやく反応を見せた。
 あられもない姿のルフィを見るのは好きたが、その声で直接的な言葉を言われれば、どぎまぎしてしまう。ローも大概面倒くさい男だった。
 しかし、ルフィの声で雄は一層硬く膨らんで――もうすぐ限界を迎えそうだと訴える。目の前がちかちかしてくる感覚がして、ローはぞくりと背筋を粟立たせた。

「とらお、もうイクっ……! はっ、ああああっ!」
「麦わら屋、麦わら屋っっ! ぐ、ううっ」

 白くて熱い迸りが放たれたのは、ほぼ同時だった。
 自身の手にかかったねちょねちょとした精液を見て、ルフィはかくんと体を脱力させる。
 ああ、体全部が熱を持って、まるで全身がけがをしてしまったみたいだ。傷つけてくる凶器は、ロー自身だとでも言うのだろうか。
 ローも射精後の気だるさにぐったりと浸っていた。いけないと思いながらも、気持ちよさには抗えない。そうして――体に灯った火は『まだ足りない』とがなりたてていた。

 ローはゆっくりと体を反転させると、潤んだルフィの瞳をじっと見つめた。それを悦ぶように細められた目は、こらえようがない淫靡さを湛えている。
 不意に視線を下げて、ローはルフィの右脚を確かめた。シーツに擦れてしまっていないだろうか? ゆっくりと左手を伸ばして、包帯が乱れてしまっていないか確かめる。

「痛くなかったか?」
「ん、へーきだぞ!」

 にしし、と笑い声をあげるルフィに、ローはわずかばかり安堵した。あれだけあられもなく喘いでいたのだ、体の下にあった足を突っ張ってしまっていたらと心配だった。
 ルフィの右脚を確かめているロー、その頬に柔くルフィの指先が触れた。するりと触れるか触れないかぐらいの力ですべる指は、ぞわりとローの体の火を再び灯らせる。

「なぁ、続きしようぜ」
「お前なぁ……」
「脚も痛くねぇから大丈夫だ! もし痛くてもよぉ、トラ男とシてるときなら……気持ちいい以外、なにも感じねェよ!」
「っ……!」

 ルフィの言葉にローはごくりと喉を鳴らした。行為を断った訳を見透かされていたばつの悪さより――まっすぐに自分を求めてくる激情に、あてられてしまって仕方がない。
 諦めたように深く深くため息をついたローは、ゆっくりとルフィの右脚を抱え上げ、自分の肩へと載せてやった。
 その行動が示す意味に、ルフィは嬉しそうに顔を綻ばせる。

「こっちの脚には、力入れるんじゃねェぞ」
「おう! わかった!」

 無邪気な笑顔は、すぐに色香を纏う。
 つぷんと中にローの指が入ってきて、ルフィはそのやんわりとした快感に、薄くくちびるを開いた。
 今はまだゆるく気持ちいいだけだけれど、すぐに何も考えられないくらいよくなるんだ。
 そう思えば、体の奥には無意識な期待が湧き上がる。その欲しがるような視線は、ローの劣情を煽り立てて仕方がない。

 早く繋がりたいという一心で、ローは性器に変えられてしまったルフィの窄まりをくちくちとほぐしていった。
 片足を抱え上げていれば、ローの指を浅ましく咥える襞はいつもよりよく見える。
 今からこのきもちいい咥内に高ぶりを埋め込むのだ。淡い期待にローはぺろりとくちびるを舐めた。
 途端ルフィの奥はきゅんと締まって、ローの指を食い上げる。

「どうした?」
「っ……トラ男がやらしーのがいけねェんだろ!」

 ここは気持ちのいいところだっただろうか? そんな純粋な疑問を含んだ声色に、ルフィはぷいと顔を背けた。くちびるを舐めるさま、その色気にあてられてしまったなどと、どうして本人に言えるだろうか?
 不思議そうな表情を浮かべたローだったが、すぐに愛撫へと意識を戻す。
 内壁をこねるように二本の指でまさぐってやれば、ルフィの雄からは押し出されているかのように、ぴゅくぴゅくと先走りが漏れた。

「あっ、あ゛あッ……きもちい……! うぁっ」
「……これなら、そんなに解さなくても良さそうだな」

 揶揄するようなローの言葉、それにルフィは何度も頷いた。もう気持ちのいいことしか考えられなくなって、頭の中はローの猛りを挿れてほしいということだけでいっぱいだ。

「ん゛ぁっ! いい! いいからぁ! はやくトラ男の挿れてくれよぉ……!」
「クッソ……!」

 照れ隠しの悪態も、ルフィには甘い言葉に聞こえてしまうから始末が悪い。
 ルフィのおねだりに抗うことなどできない。ローはずぶりとルフィの尻穴から指を引き抜いた。その喪失感にすらルフィのナカははくはくと動いて、浅ましくローの猛りを欲している。
 擦り寄せられた熱い塊に、ルフィはごくりと息を飲んだ。
 期待は体にも現れて、ぎゅっと両脚に力を入れてしまう。そうすると不意に右足を掴まれて(窘めるような優しさではあったが)、ルフィはじわりと奔る痛みに、眉を寄せた。

「力、入れるんじゃねェって言ってるだろ」
「っ悪ィ……!それより、はやく、はやく」

 痛みすらどうでもいいというようなルフィの痴態に、ローは息を飲む。
 右脚を傷つけないように位置を整えると、ローは大きな掌でルフィの腰をがっしりと捕らえるようにに掴んだ。

「……たく、それしか考えられねェのかよ!」
「――ッッ!」

 体を貫いた衝撃に、ルフィは呼吸をとめた。そうしないとこの快感は逃しきれない。
 ちかちかと目の前が瞬いて、ローの周りに星が舞っているように見える。性器からはさっきよりも勢い良く、しかし少し薄くなった精液が垂れ流された。
 ローはルフィの腹に放たれた迸り、それを塗り込めるように腹筋に指を這わせて、弾力を楽しむ。

「挿れただけでイッたのか?」
「だってぇ……気持ちよすぎるからしょうがねェだろ……!」
「はは、そうだな」

 ぐずぐずと駄々をこねるように涙を流すルフィ。流れた透明の液体を拭いながら、ローはルフィにキスを落とした。
 なんども出し入れを繰り返して、太ももがお腹についてしまうのではないかと言うぐらい、ぎゅっと体が折り曲げられる。そうやって圧迫されると、自分より強い雄に食い荒らされているようで、ルフィの心には屈辱のような、しかしどこか甘いような綯い交ぜの感情が溢れて仕方がない。

「ア゛アッ!」

 打ち付けるように腰を動かされて、ルフィはだらしなく舌を出した。
 その舌さえローのそれに捉えられて、しとしとに虐められるのだからたまらない。
 はふはふと呼吸困難に陥ったように、浅い呼吸を繰り返すルフィを見ても、ローはキスをやめる気にはなれなかった。
 だって、気持ちいいから。
 絡ませた舌も、挿入したナカも、全部がトロトロになっていて、頭がおかしくなりそうだ。このまま溶けていきそうなんて言うが、正しくその通りで、ローは浅ましく腰を打ち付けるのをやめられない。

「は、あ゛っ! トラ男、きもちい、か……?」
「あァ……っおかしくなりそうなぐらいにな……」
「ううっ! そっ、かぁ……それなら、いいや」

 そうやって笑顔を見せるルフィに、ロー劣情が一層煽られて仕方がなかった。
 ずちゅずちゅと醜ささえ感じるような水音をだしながら、ふたりは行為に溺れていく。
 ただただきもちのいいことだけを考えて、高みに上り詰めて――その先はただ落ちるだけかもしれないのに、それを気にすることも、気づくことすら無い。

「あっあっ、やば、もうイきそ……!」
「っう、くそっ……」
「ひっ、あ、あ゛ああっ――」

 体の奥に放たれた精液に、ルフィは絶頂を迎えた。
 ぐっと弓のようにしなった背中、反らせた喉に浮かぶ筋を、ぼんやりと霞がかった意識でローは見つめている。
 落ちるとはまさにこのことだろうか? ちかちかとしていた視界が、一瞬で暗くなり――というよりも意識を失いそうになる。それをようよう堪えて、ローは深く深く息をついた。
 ローが身じろぐ感覚に、ルフィはぶるりと体を震わせる。

「あー……」
「ししし……トラ男の方が早かったな」
「うるせェ」

 気にしていたことを指摘されて、ローはばつが悪そうに視線を伏せた。
 ふと肩に載せたままになっていたルフィの右脚に思い至り、ゆっくりとベッドに下ろしてやる。ずっと開いていたせいでむずむずとした感覚がするのか、ルフィはもぞもぞと脚を動かした。その足首に巻かれた包帯が目に入ると、抑えきれなかった自分が恥ずかしくなって仕方がない。

「……ったく、こんなつもりじゃなかったのに誘いやがって」
「いいじゃねェか、トラ男も気持ちよかっただろ?」
「……よかった、けど、患者に無理させるのは医者の名折れだろうが……」

 そう言って脱力しながらのしかかってくるロー、胸の上に散らばるちくちくとした髪の毛に、ルフィはくすぐったそうに笑顔を浮かべた。
 そんな風に葛藤しながらも、自分の誘いに乗ってくれたローが慕わしい。
 この行為はふたりで気持ちよくなってこそ意味があるのだから。

 ルフィの胸に頬を寄せて心臓の音を聞いていると、その額にくちびるが落とされて、ローはそっと視線をあげた。そうすると、ルフィの表情は未だしっとりと色香を含んでいて、どうやっても目を奪われてしまう。
 そうやってどぎまぎしてしまう自分を誤魔化すように、ローはわざと意地悪なことばを吐いた。

「そんなに男に抱かれるのが好きかよ」
「好きだぞ」

 きっぱりと言い張るルフィの返事、その予想外さにローは目をみはる。
 がばりと体を起こしてルフィの瞳を見つめると、その瞳はいつになく淫靡で――しかし勝ち気な男らしさも混じった、どっちつかずのアンバランスさを湛えていた。

「男にじゃなくて……トラ男に抱いてもらうのが、大好きだ」

 そうして触れられた頬に、火よりも熱く思えるような感情が溢れていくのを感じる。
 ルフィはなによりもローに抱かれる時の溶け合ってしまうような感覚が好きで――その感覚を教えられてからは、ローと一緒にいるならば体をかわしたくて仕方がなく思えるようになっていた。『また会えるから』と諦めることなどできなくなってしまうほどに。

 ふたりとも、同しようもない所まで来てしまった。
 そう自嘲するように思いながらも、それが嬉しくてたまらない。
 罪びとのような思考回路で、ローはこらえきれない悦びに、くちびるを噛み締めた。

 そっと頬に触れてくる掌は、ルフィのものであるはずなのに、まるで魂をえぐり取る悪魔のようにすら感じられる。しかしルフィをそう≠オてしまったのは、他でもないロー自身なのだ。

「こんなおれにしたんだぞ? 責任取ってやる、ってやつだろ」
「そのとおりだな……」

 ローの頬に指を添えたままルフィは、ローの瞳をじっと見つめて、まるで試しているかのように、いたずらっぽく問いかける。
 その言葉を一つ一つ感じ入るように噛み締めながら、ローは小さく返事を返した。

 そっと鼻先を擦り合わせて、それ自体は無邪気な恋人のような行為であるのに、ふたりはもうそんな清廉さとは無縁の所まで来てしまった。
 ふっと表情をやわらげながら、ローはルフィのくちびるを自分のそれでしっとりと包み込む。そうして絡ませた舌は、二人で交わす行為を暗喩しているかのようだ。
 たっぷりの時間の後、ようやくルフィのくちびるを開放したローは――ルフィの背中を両腕でなぞりながら、低い声で夢を見ているかのように囁いた。


「浅ましいおれとお前、ふたり揃ってお似合いじゃねェか」





END




(2017/06/05)



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