※注意※
※日狛セックスをした前提の狛日です。直接的な日狛セックスの描写はありませんが、その事実があったという直接的な描写があります。狛日固定の方にはおすすめしません。
※しかし結局狛日の鞘に収まるので日狛固定の方にもおすすめしません。
※暴力的表現・嘔吐シーンがあります。



水滴がバスルームのタイルを打つ音を聞きながら、狛枝凪斗は情事の痕跡を残すシーツを、つま先でたぐり寄せた。大した品質のものではないシーツは、それなりの安っぽい音をたて、狛枝の心のささくれを無遠慮に撫でていく。

 正直、いらついていた。

 すんすんと小さく鼻を鳴らして、赤子のように身を丸めてみる。しかし、ベッドの上にあるのは冬の朝のような孤独だけ。乾いた冷たさ、満たされていない。
 ぬくもりを求めるように、枕をぐしゃぐしゃに抱いてみる。そうすると、カバーに埋めた鼻先は相手≠フ匂いを捉えて、さらに空虚な気持ちになった。
――別に後悔している訳じゃないけれど、ひどいじゃないか。『ボクを抱いておいて』この仕打ち。
 行為が終わってから、ずっと風呂場にひきこもっている日向を恨めしく想いながら、狛枝はことの発端である、数時間前の会話を反芻していた。



「……俺って、いつになったら童貞捨てられるんだろうな」
「ハァ?」
 ぽつりと呟かれた日向の言葉に、狛枝は怪訝そうに眉を上げた。
 日向の手元では、おつまみするめが手慰みにされて、指先でくるくる回っている。そのさまをぼうっと見つめている日向の目は、完全に据わってしまっていて、狛枝は(まずいことになったなぁ)なんて、他人事のように考えながらビールの缶を傾けた。
 普段自分を抑圧しているせいか、日向は酔っ払うと、とても『面倒』になるのだ。
 これは言葉を選ばないと、大変なことになる。狛枝は平成を装ってピーナッツをひとくち口に放りこむと、いかにも神妙そうな表情を作って見せた。
「日向クンにはボクという恋人がいるでしょ? それで十分じゃない」
「今はそういう綺麗事を話してるんじゃないんだ!」
 ダン! と音を立ててテーブルに打ち付けられた手に、狛枝はビクリと体を震わせた。力任せにそういうことをするだなんて、普段の日向では考えられないことだ。
 (日向クンの手が傷ついていないといいけれど)なんて殊勝に考えながら、狛枝は絡まった言葉の糸から、正解を導き出そうとする。
「うーん……綺麗事じゃなくて、現実的に話がしたいっていうのはわかったけど……なんでまた、唐突にそんなことを言い出したの?」
 うつむいている日向の表情をそっと伺いながら、狛枝はできる限りなんでもないことのように、言葉を紡いだ。しかしこの受け答えが本当に正解なのか、内心どきどきしている。言葉の選択を間違えたなら、今以上に厄介なことになりそうだ。
「そ、それは……」
 狛枝の問いかけに、日向は酒で赤くなった頬をさらに色づかせた。伏せられた睫毛がぱしぱしと瞬きで揺れる。
 羞恥心は微かに残っているようだが、安心はできない。こういうときの日向は、本当に何を言い出すかわからないのだ。

 日向は暫くしどろもどろに視線を彷徨わせたが、やっと決心がついたのか、恥ずかしそうに指先を擦り合わせながら答えを紡いだ。
「それは、男のロマン、ってやつだろ……」
「はぁ」
 日向の言い分がいまいち理解ができずに、狛枝は間の抜けた声を上げる。それが癪に障ったのか、日向はさらに頬を赤く染めながら吠えた。
「な、なんだよ! お前だって散々『男のロマン』だとか言って、俺に色んなことしてきたじゃないか!」
 普段なら中々見られない剣幕だ。狛枝は(遊んでもらえない犬みたいだなぁ)なんて、ずれたことを考えながら日向の様子を眺めている。
――しかしながら「お前だって」とは、どういう言い分だろう。ボクがそんな言葉を盾にしたことが――
「……そういえば、そういうこともあったね」
「そういえばじゃない! お、俺に恥ずかしいことさせる時はいっつもだ!」
「あははは、まぁそんなことは置いておこうよ」
「狛枝ぁ……」
 じっとりと恨めしい瞳で睨みつけてくる日向、それを宥めるように狛枝は眉を下げた。「どうどう」とまるで獣を相手にしてるかのように両手で日向を抑える。
「ほら、今は童貞の話してたじゃない」
「あ、そうだった」
 狛枝の言葉にあっさり引き下がる様子を見るに、やはり酔いは相当のように伺える。いつもなら恨めしそうな「狛枝ぁ……」の後は、辟易するようなお小言が続くのに。

「まぁ、わからないでもないよ。思春期の男子は誰でも童貞捨てたいって思ってるだろうしね」
「だろ?」
 要するに日向は『男になりたい』という話をしているのだろう。狛枝はそう分析しながら、またピーナッツをひと粒口に放り込む。
 いつもは『ネコ』というやつで、狛枝に抱かれて女のように喘いでいるが、それ以前に日向は(思春期であるかは置いておいて)健全な(と言って良いのかはわからない)男子だ。そうとなれば、一種の憧れとして、童貞を捨てておきたいという気持ちもあるのだろう。
 狛枝だって、日向と付き合い始めた当初は早く童貞を捨てたくて(というよりも早く日向とセックスがしたくて)仕方がなかった。気持ちは理解できないでもない。
 しかし――それをどうやって叶えるというのだ? 狛枝は頬杖をつきながら、まだ頬を赤らめたままの日向を横目で見る。

「でもさ、捨てたいって言ってもキミにどんな選択肢があるの? 風俗にでも行く? それとも、機関の女の子でも引っ掛けるとか?」
「そんなことできるわけないだろ!」
「ええーだって現実的って言えばそうするしかないじゃない」
 自然と意地悪な口調になるのは仕方のないことだ。童貞を捨てたいということまでは理解したが、日向がそれにどんな幻想を抱いているか、わかりはしないのだから。もしかすると、可愛い女の子とセックスがしたい、だなんて考えているのかもしれない。
 もしそうなら浮気じゃないか! 狛枝はそう思い至って不機嫌そうに頬を膨らませた。一方の日向は未だそわそわと視線を彷徨わせたままだ。
「だ、だって……」
 さまよう視線に呼応するように、そわそわと指先を動かす。酒が回っているのか、今では目まで真っ赤にしながら、日向はごくごく小さな声で呟いた。
「だって……好きじゃない子とそういうことするのは、だめだろ……」

 何を言っているのか、理解するのが遅れてしまった。
 しかし日向の言葉をすっかり嚥下した瞬間――狛枝はむずむずと胸の奥がざわつくのを感じた。口もとが緩んでしまってしょうがない。溢れそうになった唾液を手の甲で拭いながら、改めて何を言われたか噛みしめる。
(日向クンはボク以外とセックスするの嫌なんだ)
 恋人同士なのだから、貞操観念があるのはあたり前のことなのかもしれない。しかし改めてそうほのめかすことを言われると――嬉しくて仕方がなかった。
 今すぐ押し倒して、日向を抱きたい。満足させられるのは自分だけであると、その体に教え込んでやりたい。そっと手を伸ばそうとした瞬間、狛枝の心に小さな迷いが生まれた。

 日向は童貞を捨てることを望んでいるのに、また女のように抱いてしまって良いものだろうか?

 日向が恋人以外とのセックスを望まないのであったら、その相手は狛枝しか居ない――万が一日向が自分から離れることがあれば、共に心中するつもりである――そうすると、日向の願いが叶えられることは一生無いのではないか。
(それなら、ボクが日向クンの願いを叶えてあげないといけないんじゃないかな?)
 そう思ったのは、冷静な判断だったのか、それとも酒に酔ってしまったからなのか。兎角その時の狛枝は殊勝な気持ちになっていた、聖母のような気持ちとも言える。愛する人の願いを恋人の自分が叶えてやらなくてどうする! それができるのはボクだけだ! なんて、妙な使命感に駆られて、気付いたときには日向の両手をぎゅっと握りしめていた。
「そんなに童貞捨てたいならさ、ボクを抱けばいいよ!」



 あの判断は間違いだったのかもしれない、狛枝はゆっくりとベッドから起き上がりながら、自分の行動を深く反省した。
 床に足を下ろすと、フローリングがきしりと音を立てる。みしみしと音を立てながら部屋の中を歩く、しかしそこには狛枝以外の気配はない。
 行為自体は問題なく終わった。しかし上がった息のなか、狛枝が日向の様子を伺うと(日向を満足させられたか、不安もあった)日向は上気した頬に瞳を真っ赤に潤ませていて、そのまま狛枝を置いて、バスルームに篭ってしまったのだ。
 狛枝は何が起こったのかわからないまま、シーツの上に取り残された。待っていればシャワーから上がって、出てくるだろうと高をくくっていたが、どれほど時間が経っても日向が出てくる様子は伺えなかった。

 バスルームの扉、折りたたみ式のドアを狛枝は乱暴に蹴り開けた。生温く篭った蒸気が、洗面所に充満する。タイルを打ち続けるシャワーの水滴の中に、日向はうずくまっていた。
 その背中を、狛枝はまた右足で――ごく軽く、ではあるが――蹴り押した。
「ねぇ、一体何してるわけ?」
「……痛い」
 タイルに手をついた日向は、力なく抗議の声を上げる。しかしその声には覇気がない。狛枝はその姿に、自分たちが付き合いはじめる以前のことを思い出していた。狛枝が日向のことを酷く詰ったときのような――何かを諦めたような顔。あのときに似ている。
「ボクもさぁ、説明してもらわないと困るんだよね。キミ、どういうつもりなの? 抱いた相手を放っていじけるなんてさ、男失格だと思わない? あぁ……でも日向クンはもう女の子≠ノなっちゃったから、仕方のないことなのかな?」
 揶揄するような言葉を浴びせれば、日向は反論してくると思っていた。しかし、罵倒に近い狛枝の物言いにも反応せずに、ただただタイルにうずくまっているだけだ。ぱたぱたと背中に弾かれた水が、背筋の筋に沿って流れていく。

 湯気と共に沈黙が流れるバスルーム、その空気に耐えかねて――狛枝の中で何かが切れた。
 日向の腕を力いっぱい掴んで(きっとあとで痣が残ってしまうだろう)ぐっと捻り上げるように自分の方へ向き直らせる。ガランと耳障りな音を立ててシャンプーのボトルが床へ転がった。
「ねぇ、返事してくれないとわかんないよ」
「……」
 それでも、日向は何も語ろうとはしない。シャワーでこもっている熱で、頭まで熱くなってしまったのか、狛枝の頭には完全に血が上ってしまっていた。暴力的な衝動に駆られて仕方がない。

 泣き腫らしたように赤い目元、涙が流れたのか、シャワーが流れたのか、わからなくなってしまっている頬。狛枝は少しまるい日向の輪郭を確かめるように両手で優しく包んだあと――両手の親指を日向の口に突っ込み、喉の奥に力いっぱい突き入れた。
「ぐがっ、う、ぐ……ぐぇっ」
 嘔吐感に見舞われたのか、日向の腹筋がビクビクと歪にうねっているのを感じる。それでも狛枝は手を休めなかった。指先でかはかはと破裂する空気、急激に分泌される唾液を感じながら、親指に力を入れ続ける。
 ガクガクと日向の体が大きく震えて――両手を強く掴まれた。元々日向のほうが体格も良ければ、力も強いのだ、骨が軋むのを感じた狛枝は、漸く日向の口から指を引き抜いた。

「おえっ、が、ぐ……ぐぁっ」
 歪な音を立てて、日向は胃の中の物を吐き出した。とは言えほとんど酒しか飲んでいなかったのだ、固形物ではなくほんのすこし粘度のある液体しか出てこない。狛枝は(ああ、きっと喉がぴりぴりして痛いだろうな、可哀想に)なんて、他人事のように考えながら、日向をじっと見つめていた。
 おおよそ胃の内容物を吐ききった日向は、ぐったりとタイルに倒れ込んだ。ぜえぜえと歪に息をつきながら、シャワーを手にとって口を濯いでいる。
「お前な……俺を殺す気か?」
「場合によってはね」
「聞いた俺が馬鹿だった……」

 はぁ、と脱力しきった日向の前に、狛枝は座り込んだ。未だじんわり赤くなっている目元が卑猥だ。涙の跡をなぞるように親指を這わせると、先程の暴力を思い出すのか日向の体はびくんと大げさに震えた。狛枝の指は日向の唾液でねっとりと濡れて、ぬるぬるしている。それで触られるのは不快なのかもしれない。
「で? なんでそんなにヤケになってるのさ、殺されかけるよりかは話す方がマシでしょ?」
「どんな二者択一だよ……」
 呆れたように息をつく日向、その太ももを狛枝は触れるか触れないかといった優しさで撫で上げた。ぞくぞくとした快感が奔ったのか、日向の内ももが強張る。ぞくりと蕩けた表情をした日向の耳朶に、狛枝はそっと唇を寄せた。
「ボクとのセックスは気持ちよくなかった……?」
「う……」
 低く掠れた声で耳を擽れば、日向はビクンと体を大きく震わせた。性器まで柔く反応しているのだから、可愛くて仕方がない。答えを強請るように舌で耳朶をしゃぶれば、日向は観念したように「……気持ちよかった」と呟いた。
「そう? それは良かったじゃない。じゃあ、なんでいじけてるの?」
「それ、は……」
「……答えないなら、耳だけでイッちゃうまで、擽り続けても良いんだけど」
「うぁっ」
 そっと舌先で耳の輪郭をなぞる、暗喩のように亀頭の先でくるくると指を動かせば、触れてもいないのにぴゅくりと先走りが溢れた。

 狛枝がそういうことを言い出したら、本当にやってしまうであろう、ということを日向はわかっている。漸く観念したのか、日向は心底悔しそうに、言い捨てるかのように唇を開いた。
「きもちよかった……けど……狛枝に抱いてもらってるほうが、もっと、気持ちよくて……」
「……あはは」
「わ、笑い事じゃな……! んぁっ!」
 いきなり尻穴に指を突っ込まれて、日向は嬌声を上げた。
 さっきまでの乱暴さが嘘であったかのように、狛枝は日向を優しく抱きしめて、ゆっくりとした手つきで、日向の気持ちいいところを押し探る。
 きっとさっきのセックスで、体は熟れてしまっていたのだろう。抵抗もなく指を受け入れたそこは、狛枝を待ち焦がれていたようにうごめいた。
「ゴメン、笑ったわけじゃないんだ……ただ、キミがあんまり可愛いことを言うから、嬉しくてさ」
「ひっ、あ、ああっ、こまえ、だぁ……」
 すがりつくように絡まってくる腕に答えながら、狛枝は日向の唇にキスをした。舌を絡めると、シャワーが二人のつなぎ目から流れ込んで、ほんの少しだけ水の味がする。

「ねぇ、日向クン。このまましちゃおうよ、いいでしょう?」
「聞くな、よ……うあっ」
「じゃあしちゃうね」
 さわさわと前立腺を優しくこすられて、日向は快感を逃がそうと膝を閉じようとする、しかし狛枝にそれを阻まれて、義手の左手でがっちりと右脚を開かされてしまった。
 ふるりと期待に震えたペニスを口に含み、狛枝は丹念に舌を這わせる、きつく吸い上げる度にナカに入った指を曲げると、その度に大量のカウパーを溢れさせた。
「ひぃっ、あっ、狛枝……それ、やめろ……」
「ろっちを? なか? フェラ?」
「口に入れたまましゃべんなぁ……ああっ、ふぇら、ふぇらの方だ……っっ!」
「ぷはっ」
 わざと唇のふちで弾くようにして口を離せば、面白いように日向の体が跳ねる。狛枝は左手首で軽く口もとを拭いながら、不思議そうに首をかしげた。
「なんでやめてほしいの? 気持ちいいでしょ?」
「いい、けど……」
 言い淀んで顔を背ける日向、その様子を見て狛枝はいたずらをするように中を焦らすようにかき回し、ぷくっと膨れた乳首を舌で弾いた。
「あっ……」
「いいけど≠ネに? 言ってくれなきゃわかんないよ?」
「――ッ」
 羞恥からか、日向の額には玉のような汗が浮かんでいる。狛枝はそのさまを(全部舐めちゃいたいなぁ)なんて思いながらじっと見つめていた。

 暫く、沈黙が続く。しかし日向は言うまで開放してくれないであろう狛枝の様子に諦めたのか――ゆっくりと下肢の方へと己の手を伸ばした。
「んん?」
 日向は狛枝の腕に手を添え、挿入されていた指をつぷり、と引き抜いた。そんなに嫌だったのだろうか? と不思議そうな表情を見せた狛枝だったが、日向の表情を見て息を飲む。
 潤んでいるが、どこか勝ち気な瞳。シャワーの湯が流れててらてらと光を反射する唇。湯が流れた先には筋張った首筋に喉仏が浮かんで――日向は何時になく挑戦的で、淫靡な表情を浮かべていた。
 そっと日向の指が狛枝のペニスに伸ばされて、ぽってりと熟れている後孔の襞へと誘われる。先が触れただけなのに、狛枝の背筋にはぞわりと迸るような快感が奔った。
「気持ちいいけど……フェラじゃさっき≠ニ一緒で足りない……狛枝のこれで、俺の奥、突いてくれよ……」

 ぎゅう、と歪な音を立てて喉が鳴るのを感じた。喉も、理性も全部が干上がってしまって――日向に吸い込まれてしまったように感じる。
 いつものようにじっくり慣らしてはいないが、かまうことはできなかった。それよりも日向の期待に答えてやりたくて、狛枝は夢中でペニスを日向のソコへ突き入れる。
 みしみしと肉を割って押し進む感覚が、普段と違って気持ちがいい。まるで貪欲になった日向の体に喰い取られているようにさえ感じた。
「ひぐっ、ぐ、ぁあ……こまえだぁ……」
「ひなたクン、ひなたクン、ひなたクン……! はぁっ……本当に可愛いよ…!」
 陶酔しきった狛枝の吐息が耳を擽り、日向は淫靡に睫毛を伏せた。その睫毛にさえ小さな水滴が含まれていて、きらきらと光る。そのさまを見て狛枝は、これは夢なんじゃないかとさえ思いもした。

 しかし、目の前で乱れている日向は紛れもなく現実だ。
 するりと胸に手を這わせれば、もっとと強請るように日向の手が添えられる。しっかりした胸筋の弾力を感じながら、腰を動かすと、きゅんきゅんとナカが締まって、ちかちかと目の前が点滅しそうな程の快感を感じた。
「ああっ、ひっ、あっあっ、狛枝ぁ……もっとぉ……」
「んぅぅぅ、どうしたの日向クン、なんで今日はそんなにいやらしいの!?」
「だって、中途半端にきもちいいの、うぁっ、嫌なんだ……! 狛枝とヤるのは、すっごい……くっ、きもちい、って……たしかめたく……れ」
 前立腺より深いところを突かれる度、呂律が回らなくなっていく日向。だらんと外に出された舌が淫靡で、狛枝はたまらずそれにしゃぶりついた。
 舌と舌をすり合わせるようにして、一緒に腰を動かすと、ふたつの場所から溶けてしまっていくようで、たまらなかった。
「はっ、いいのかな? こんなに気持ち良くってさぁ……! 頭悪くなりそうだよっ……!」
「いい! なっていい、からぁ! ああっん」
「ははっ、日向クンはもう十分悪くなってるみたいだね」

 ぜんぶ真っ赤になったみたいだ。狛枝はぼうっとしたままの頭で考える。自分の頬も、日向の頬も、繋がったところすら上気したように赤く染まっていて、発情したみたいに飢えて求め合う。
 ずるりとペニスを引き抜くと、ぽっかりと空いた穴が浅ましくひくつく、じゅぶ、と音を立てて再びペニスを突き入れれば、びくびくと日向の体が震えて、精液が薄く腹筋の浮かぶ腹へと飛び散った。
 シャワーに流されていく、白い液体に狛枝は(もったいないなぁ)なんて冷静に考えながら、未だ絶頂に震えている日向の体を激しく突き動かした。
「ん゛あっっ、ア゛ッッ、こまえだ、こまえだぁ……!」
 壊れたように自分の名前を呼ぶ日向、狛枝はその体をしっかりと抱きとめながら、赤く充血した耳朶に噛み付いた。日向が痛みに呻いても、やめることはできない。
「ねぇ、日向クン! ボクは嬉しいんだよ……! 男同士だからどっちが上だってプライドもあるはずなのにさ……!キミがこの形≠選んでくれたってこと……!」
「はひ、ううっ、んぅ、アッ!」
 今度はねっとりと探るように動かされる腰に、日向は視線を中に拡散させながら快感を享受している。狛枝の腰には日向の脚がギッチリと回されていて、まるで離さないとでも言っているかのようだった。

 日向のナカの襞にペニスを押し付けるように腰を動かすと、粘膜がきゅうきゅうと収縮する。本当の意味での絶頂が近いようで、日向は狛枝の首に腕を回そうともがいていた。水のせいで滑ってしまい、その度にもう一度と腕を伸ばすさまは、まるで溺れているかのようにも感じ取れる。
 狛枝はその腕をしっかり掴んで、自分の首にまわしてやりながら、日向のナカが一番収縮する場所にぐっと亀頭を押し付ける。
 まるで悲鳴のような声がバスルームの壁に響いて――しんと静かになった。ばたばたと水が落ちる音だけと、今にも息絶えてしまいそうなほど乱れた日向の呼吸を感じながら、狛枝は想い人の奥底へ長く長く精液を吐き出していた。

 暑い。熱い。

 一瞬気絶してしまった日向、その頬を優しく撫でてやりながら、狛枝はそこへ滴る水の流れを舐めとっていた。不思議と乾きが癒やされていく、満たされていくのを感じる。
 ゆっくりとまぶたを開いた日向は、未だ快楽が迸っている体をようよう動かしながら、同じように狛枝の頬へと手のひらを添える。
「なぁ、こんな俺、だめかなぁ……」
「まさか」
 すんすんと鼻を鳴らしながら、じっと見つめてくる日向。それは許しを請うような視線だった。
 そんな目元に唇を落としてやりながら、狛枝は甘やかすように体を抱きしめてやる。瞳はどろりと濁っていたが、それをみた日向は嫌がるでもなく、むしろ陶酔したかのように目を細めていた。

「浅ましいキミも大好きだよ」
「はは、そうか……救われないよなぁ……」
 日向は力なくそう笑う。
 男二人、結ばれたとしても何も生み出さない、無生産で退廃的な関係。そんな報われない繋がりだとしても――(ボク達ががこの関係を手放すことは一生ないのだろう)狛枝はそんなふうに確信を強める。
 バスルームに篭った熱が、冬の朝のような孤独を溶かしていく。そんな心地よさが存在する限りは。決して。




END





(2017/04/28)



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