※結論的には夢オチです。




 バックヤードに人の気配はなく、ただ毛足の長い絨毯を踏みしめる音だけが響いている。ようやく控え室へたどり着き、装飾が施された重い扉を開けると、壁に備え付けられた大きな鏡には、浅ましい男が姿を現した。

 その男の正体――水着獅子王アルトリア・ルーラーに仕えるガウェイン卿は、鏡に反射した己の姿を一瞥して、大きなため息を漏らした。
 アルトリア・ルーラーが治める、カジノ・キャメロット。豪奢なつくりをした城の中で、ガウェインは王に召致された円卓の騎士達と共に、ディーラー業に勤しんでいた。
 生前においては賭け事には明るくなかったが、王の命とあらば話は別である。円卓の騎士達は、持ち前の生真面目さでギャンブルのいろはを学び、カジノ・キャメロットは、今やラスベガス随一のカジノとして名を馳せるようになっていた。
 夢のない話ではあるが、賭博というものはどうやっても胴元が儲かるように仕組まれている。
 己を目当てに足を運んでくれる淑女達に、少しばかり罪悪感を覚えはするが……『仕事は仕事』だと割り切って、ガウェインは全力で務めを果たしてきた。時にランスロット卿やトリスタン卿と競いつつ、ガウェインは常にトップクラスの売り上げを誇っている。しかし、どうしてか今日は腕が奮わず、頭を冷やそうと控え室に戻ってきたのだった。
 いや、どうしてか≠ネどと、ガウェイン自身も理由はわかっているのだが――
『ガウェイン、いる?』
「マスター……! ど、どうぞ、鍵はあいていますので、お入り下さい」
 がらんとした部屋の静寂は、控えめなノックの音に破られた。ノックと共に扉の向こうから聞こえた声に、びくりとガウェインの肩が震える。
 ガウェインは訪問者から見えないように、扉に背を向けたソファに、急いで腰を下ろした。素知らぬふりでノックに対応するが、その声色には微かな焦りが滲んでいる。
 ガウェインの返事をうけて、静かに控え室の扉が開く。部屋を訪ねてきたのは、ガウェインの不調の原因にほかならない、マスター・立香だった。

「わあ、ここにもシャンデリアがある。控え室まで豪華なんだなぁ」
「――え、ええ。王は客から見えぬところでも、手を抜かず磨き上げるようにと仰っています」
「へー、さすがアルトリア・ルーラー……」
 立香はきょろきょろと室内を見回して、無邪気な顔で目を輝かせる。その姿を背中越しに窺って、ガウェインはごくりと喉を鳴らした。
 立香は普段纏っている魔術礼装ではなく、このカジノにおける正装≠ナある、バニーボーイの格好に召し替えていた。
 はじめこそ、露出の多い格好を恥じらっている様子だったが、カジノで働くボーイ達が一様にこの格好をしているのを見て、感覚が麻痺してしまったのだろう。立香の振る舞いはもう、普段と変わらなくなっている。
 無防備にあどけない表情と、フェティッシュなバニーボーイ姿。そのアンバランスさには、どこか男を惹きつける隙≠ェあって、ガウェインは己の劣情が、ひどく煽り立てられるのを感じた。
 彼に見とれていたせいで、ガウェインはいつにない負けを味わうことになったのだ。
「ガウェイン、もう仕事は終わったの?」
「いいえ……今日は少し、手元が狂ってしまいまして。頭を冷やそうとここへ来たのです」
「へぇ、珍しいな。おつかれさま」
「――ありがとうございます」
 立香からの労いにも、曖昧な笑みを返すことしかできない。話を長引かせないよう、ガウェインは最低限の相槌しか打たなかったが、立香はさして違和感を覚えてはいないようだ。
 横目で彼の様子を窺えば、彼が柱や天井の意匠に視線を配る度、頭の上でぴょこぴょこと兎の耳が揺れているのが見える。
 その姿は可愛らしくもあり――蠱惑的でもあり、ガウェインはその姿を見ただけで、股間が窮屈になるのを感じた。

「ぐ……」
 欲情を噛み殺すような唸りに、立香は気付いていない。そのことに安堵を覚えつつ、ちらりと自らの股ぐらを確認する。そうすると、ガウェインが身に着けている、ぴったりとしたホットパンツは、一目でわかる程に傘を張ってしまっていた。
 さっきはカジノフロアでこの状態になってしまい、誤魔化すのが大変だった。
 ディーラーであるガウェインは、当然このカジノの正装≠ナあるバニーボーイ衣装を身に着けている。流石に王のようなハイレグではないが、股間から臀部にかけては伸縮性のあるホットパンツで覆われていて、勃起すればはっきりと形が浮き上がってしまうのだ。
 それをどうにか隠そうとして手元が狂い、ガウェインは大負けを味わう羽目となったのだった。

「――ガウェイン?」
「は……り、リツカ!?」
 突然耳元で名前を呼ばれ、ガウェインは心臓が縮み上がるような気持ちになった。物思いに耽って油断してしまっていたようで、いつの間にか立香は、ガウェインの傍へ近づいてきていたのだ。 正面から覗き込まれているので、立香にはガウェインが勃起しているところが、はっきり見えてしまっているだろう。驚いたように見開かれた青い目は、隠し事が暴かれたことを物語っている。
「こ、これは違うのです! そ、その……やましいことはなにも……!」
 焦りで上擦った声の、なんと情けないことか。
 こんなことになるなら、控え室でほとぼりが冷めるのをを待つのではなく、自室へ戻りマスターベーションをしておけばよかった。
 一番見られたくない相手に醜態を見られてしまい、ガウェインは絶望に打ちひしがれてしまった。
 同じ男であるとはいえ、マスター・立香は性的な欲に疎い、清らかな御方だ。このような浅ましい姿を見れば、きっと嫌悪感を抱くだろう。
 密かに寄せていた想いが、全て台無しになってしまった――そう思うと、体から血の気が引いて、目の前が真っ白になっていく。

 茫然自失に陥っていたガウェインだったが、不意に背筋に奔った快感で、ようやく現実に引き戻された。
「――は」
「こんなにしちゃって、どうしたの?」
「リツカ!? い、一体何を……! ああッ!」
 ぬるりと股ぐらにもぐり込んだ手が、硬くなった膨らみをグニグニと揉みしだく。ぞくんと痺れるような気持ちよさに、ガウェインは何が起こったかわからず目を白黒させた。
 立香はガウェインの隣へ腰をおろして、逞しい体にしなだれかかるように体を預ける。上目遣いでガウェインを見つめる表情は、甘えているようにも挑戦的にも見えて、喉が干上がるような思いがした。
「いっぱいお仕事してるから、ご褒美が欲しくなったのかな? 俺が、抜いてあげるね……」
 ジ……ジジ……と焦らすような速さで、ホットパンツのファスナーがおろされていく。
 混乱しつつ立香の顔を見遣れば、声もなく唇を舐める様が目に入り、その淫蕩さに目眩がしそうだった。それで余計に血が集まったからだろうか、いよいよホットパンツから逸物が飛び出してきて、ガウェインは喉を絞るような悲鳴をあげた。
「な、なりません! りつ――あ、ひッッ、くぅっっ……!」
 あどけないと思っていた立香の手が、白蛇のように己の逸物に絡みつく。まだ兆しとも言える幹を育てるように、優しく上下にしごかれて、ゾクゾクっと腰を快感が包んだ。乾いた喘ぎを漏らすガウェインを微笑ましげに見つめて、立香は稚げに跳ねた目尻を下げる。
 しゅこ、しゅこ、と動きを繰り返せば、すぐにガウェインのペニスは完全勃起して、立香の手には収まりきらなくなってしまった。
「ふふ、ガウェインのおちんちん、こんなに大きくなって……えらいえらい」
「あッッ、り、立香! からかうのは、やめてくださいっ……!」
 揶揄するような言葉も、今のガウェインにとっては、甘い官能にしかならないようだ。
 ぱんぱんに膨れ上がった亀頭からは、涙のように雫がこぼれて、部屋のなかに雄の匂いが充満していく。ちゅこちゅこと水っぽい音がし始める頃には、ガウェインは口だけの抵抗もやめて、すっかりと立香に身を任せきっていた。
「は、ううっ! りつかっ、ん、うぁっ……!」
「ん……きもちい?」
「はい、きもちい、れす……んぁっっ!」
 よしよしと褒めるように亀頭を撫でられて、強い射精感に思わず腰が浮き上がる。
 むき出しになった立香の肩を抱き寄せて、癖のついた黒髪に鼻先を埋める。そうすると、想い人の芳しい香りで、全身が満たされていくようで、ガウェインは陶酔した表情で瞳を潤ませた。

 ふと視線を落とせば、体を寄せたせいか立香のバニースーツが縒れて、彼の胸元が丸見えになってしまっている。手を上下するたび、まるで誘っているかのように揺れる乳首は、彼の手付きとは裏腹に処女の薄桃色をしていた。
 ガウェインは衝動のまま身をかがめて、ふるふると主張する膨らみに唇を寄せる。
「アッッ! がえいん、ちくびだめっっ! んんんッ――は、ひうっ!」
「んむ、は、あぁっ! かわいい……! ふにふにしてますね……ん、んっっ」
 チュウチュウと音を立てて吸い付かれて、れろれろと弾くように弄ばれて、男に蹂躙されるたび、薄桃色が濃く卑猥に熟れていく。悩まし気に揺れる腰を見て、ガウェインは限界が近い事を覚った。
 立香もそれを感じ取ったのか、絡みつく手は追い詰めるように動き、射精したいとねだるガウェインのペニスを扱き立てた。
「ぐぅッ――! ぬ、は、あぁ――ッッ!」
 膨れ上がった亀頭から、ビュクビュクと音がたちそうな程の勢いで精液が溢れ出す。絞り出すような陰嚢の動きまでまざまざと感じられて、ガウェインはいつにない快感に唇を噛んだ。
 目の前の胸板に頭を預ければ、己の唾液でしとどに光る膨らみが頬を擦っていく。赤い絨毯に散った精液をぼうっと見ていると、『これを彼の奥へかけたい』という渇望が首を擡げはじめた。
 はう、と感じ入るような吐息に立香の様子を見れば、彼の頬はすっかり紅潮して、胸の刺激だけで絶頂に至ったこと物語っている。
 清廉なはずの立香が、このような淫蕩さをどこに隠していたのか――疑問はひとまず横へ押しやり、ガウェインは改めて彼に種付けするため、力のぬけた立香の体を、ソファへ押し倒す。
 とろけるような心地は、まるで微睡みのようにガウェインの体を包み込んでいた。






END







(2020/01/12)




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