「マスター、ガウェインです。少しお時間を宜しいでしょうか」

 ベルの音を扉越しに聞きながら、入室の許可を乞う。しかし待てども室内からの反応はなく、ガウェインは訝しげな顔をして首をかしげた。
 普段であれば間を置かずに応答してくれるのだが、もしかすると不在にしているのかもしれない。この時間であれば自室に戻っていると踏んで訪ねてきたのだが、今日はまだどこかで他のサーヴァント達と過ごしているのだろう。
 時間を置いて出直そうと踵を返した途端、しんと静まっていたスピーカーが急に反応を見せてガウェインは足を止めた。

『はい! どちらさまですか?』
「ああ、いらっしゃったのですね。ガウェインです、管制室より今度の任務に関する資料を預かって参りました」
『そっか、今ちょっとばたばたしてるんだけど、よかったら中で待っててよ』
「お忙しいところ申し訳ありません。それでは失礼いたします」

 返答と共にロックが外れる音が響いて、目の前の扉がスライドしていく。室内から漂ってきた香りを不思議に思う間もなく、ガウェインは眼前の光景に目を疑った。
 こころなしか普段よりしっとりとしている空気に混ざるのは、淡い石鹸の香りだ。その出処であるシャワーブースに視線をやれば、そこではマスター・立香が硝子戸から半分だけ身を乗り出して、ガウェインの方を覗き込んでいた。

「マ、マスター!? い、一体何を……!」
「シャワー浴びてたから返事が遅れちゃってさ。もうすぐ出るから座って待ってて」
「し、しかし、その……! 私が部屋にいて、お嫌ではないのですか……?」
「うん? 別に良いよ。出直してもらうのも申し訳ないしさ」

 動揺しているガウェインをよそに、立香は何食わぬ顔をして室内へと促してくる。むき出しになった肩が寒そうに震えたのを見て、ガウェインは慌てて部屋へ入り扉を閉めた。
 それでガウェインが了承したと受け取ったのか、立香はシャワーブースに戻り湯を浴び始めた。しかし残されたガウェインは混乱したままで、ざあざあと水が流れる音を呆然と聞いているばかりだ。
 しばらくしてようやく我に返ったのか、ガウェインは急いで部屋の扉にロックをかけた。錠をあけたままにしておいて、他のサーヴァントでも訪ねてきたら大変だ。それが女性だったりしたら、初心な彼は恥ずかしがるに違いない。よしんば男性であったとしても――自分以外の男がこの無防備な姿を見るのは、ガウェインの方が耐えられなかった。

 おそるおそるシャワーブースを覗えば、湯気で曇った硝子の向こうにほっそりとした裸体が浮かんでいる。結露に遮られほとんどシルエットしかわからないが、それでもガウェインの目には毒だった。いとけない彼のことだ、同性であれば裸を見られても問題ないと思っているのだろう。自らの肢体に男が欲情するはずはないと信じ切っているのだ。
 疑う事を知らぬ無垢さを憎らしく思いつつ、ガウェインはシャワーブースに背を向けるように椅子に腰をおろした。背後を気にしないように自分に言い聞かせて、気を紛らわせるために資料の紙束を開く。そうして図表の摘要にまでくまなく視線をはしらせたが、中身は全く頭に入ってこなかった。
 硝子をすりぬけてくる水音を聞いていると、どうしても彼の裸体を想像してしまう。もし少しでも自分の理性が欠け落ちてしまったなら――シャワーブースに押し入り、欲望のまま彼の体を貪ってしまうかもしれない。
 ガウェインはそういう意味≠ナマスター・立香に想いを寄せていたのだ。

「ああ、ダ・ヴィンチちゃんが昼間話してたやつかぁ」
「はっ!? ま、マスター……!」

 ひょっこりと現れた立香の横顔に、心臓が縮み上がりそうになった。ぼうっとしていたせいで気づかなかったが、いつの間にかシャワーを終えて出てきていたらしい。
 ガウェインの肩越しに資料を覗き込んでいるせいで、ひどく近い場所に彼の顔がある。入室したときよりずっと強く香る石鹸の匂いに、思わず深く息を吸ってしまった。
 立香は無防備にも下着しか身に着けておらず、上半身は肩にバスタオルをかけただけだった。彼の体をまじまじと眺めれば、日に焼けていない腹は薄い筋肉を感じさせて、髪から滴った雫はぴんと伸びた睫毛を濡らしている。湯であたたまった体からほんわりと伝わってくる熱は、まるでガウェインを誘っているように感じられた。
 思わず鳴ってしまった喉は、男の浴場をほのめかしている。しかし無垢な少年がそれ気付くはずもなかった。

「ガウェイン、メンバーに入ってないのに持ってきてくれたんだ。手間かけさせてごめんな」
「い、いえ。貴方にお仕えする身であれば、当然の、こと、です……」

 喉から絞り出した声は随分掠れていたが、立香は気にすることなく資料の中身を覗き込んでくる。そうしてガウェインから紙束を受け取ると、立香はそのままの姿で本格的に資料を読み始めてしまった。
 濡れたままの髪からは未だ雫がしたたり、今度は頬や首筋へつうと水滴の跡を残していく。鎖骨にうっすらとあらわれた水たまりは一層蠱惑的で、ともすればその窪みにむしゃぶりついてしまいそうだ。下着の裾からまっすぐ伸びた脚も自分を誘惑しているように思えて――ガウェインはついに、おそるおそる彼の肩へと手を伸ばした。

「ん?」
「……失礼を。おぐしが濡れたままでは風邪を召されますので」

 唐突に触れられてきょとんとしている立香を、ガウェインは肩にかけていたバスタオルで包んでやった。これ以上体が見えてしまわないように頭からタオルをかぶせ、両手でぐしゃぐしゃと髪を拭っていく。立香は「わぁ」と驚いた声をあげたが、そのままじっとしてガウェインの好きにさせてくれた。戯れられているだけだと思っているのか、くすぐったそうにくすくす笑い声をあげている。
 その無邪気さがいよいよ腹立たしくなって、ガウェインは深く深くため息をついた。勿論――バスタオル越しではその吐息が伝わるはずもないだろう。



「悪いよガウェイン、シーツぐらい自分で換えられるって!」
「いいえ、なりません。変に動かして骨がずれてしまったらどうするのです。綺麗に折れたから良いものを、これ以上悪化させるおつもりですか?」
「うっ……ごめんなさい……」

 ガウェインの声が普段より随分尖っていると察して、立香はしゅんとした顔で眉を下げた。令呪が刻まれている右手はがっちりとギプスで固定されて、少しも動かせないように肩から吊り下げられている。その痛々しい姿にガウェインはまた眉を寄せて、彼の寝床を整えるために真っ白なリネンを広げた。

「横着しないで起きた時に換えとけば良かったなぁ」

 せっせとシーツを取りかえているガウェインの背後で、立香は所在なさげにため息をついている。マスターが己のサーヴァントを働かせるなんて当たり前のことなのだが、彼は必要以上に世話をやかれることを嫌がるのだ。
 そんな控えめな所を好ましく思ってはいるが、何もかもを自分でこなそうとして怪我をするのはいただけない。今日だって彼は戦闘中に自分で走っていたせいで、敵性対象の追撃をかわせず骨折する羽目になったのだ。同行していたのがアスクレピオス氏であったから良かったものを、これがナイチンゲール女史だったなら腕ごと切り落とされるか帰還するまで俵担ぎで運ばれていただろう。
 医神からこってり絞られて反省はしているようだが、利き腕を負傷したというのに未だ雑事を自分で行おうとしている。それを見かねてガウェインは帰還した後にもずっと立香の側に張り付いているのだ。

「寝床は整いましたので、早く休まれた方がよろしいかと。ですが……夜着のお支度はいかがなさいますか?」
「うーん、このままじゃ寝れないよなぁ……悪いけどガウェイン、タオルと熱いお湯持ってきてくれない? 汗かいたから気持ち悪くって」
「はい、それは良いのですが……」

 視線で促された先には、シャワールームとタオルが置かれた棚がある。
 負傷もあって早めに帰還したものの任務中の運動量は馬鹿にならない、体を清めてから休みたいのは当然だろう。
 しかしタオルで拭った所で気休めにしかならないのではないだろうか?
 横目で立香を覗えば、彼はむずむずと居心地悪そうに手で髪を梳いていた。今日のレイシフト先は土煙が酷かった、きっと髪の奥にまで砂粒が入ってしまっているのだろう。ガウェインは心の奥に浮かんだ案を暫し持て余して――つとめて平坦な声音を装いながら、立香へと語りかけた。

「シャワーを浴びてから休まれた方がよいのでは? 拭っただけではすっきりしないでしょう」
「そりゃあ、できるならそうしたいけど……左手だけじゃ体も洗えないし」
「ええ、そうでしょうとも。ですから――」

 ぷつりと不自然に途切れた声に、立香はきょとんとした表情で首を傾げた。
 これ≠口にすれば、後戻りは出来なくなってしまうかもしれない。主を慮るふりをしておいて、本当は自らの醜い欲を満たそうとしているだけなのだ。その逡巡はガウェインの最後の理性だったが――硝子の向こうに浮かんだあの影を思い出してしまえば、男の理性など脆いものだった。

「――私がお手伝いをして差し上げます」



 水音の反響に包まれて、あたりに満ちる湯気さながらに頭までぼうっと煙っていくようだ。
 ガウェインは目の前にいる少年に湯をかけてやりながら、うっすらと筋張ったうなじをじいっと視姦した。湯を被ったからかそれとも羞恥からか火照ったように赤く染まった肌が、水分でてらりと光っている。あまりの淫靡さに思わず喉を鳴らしたが、シャワーの音でかき消されてきっと彼には届いていないだろう。
 髪に残った泡を流しきってから、ガウェインはボディタオルに石鹸を擦り付けた。肌を傷つけてしまわないようにたっぷりと泡を立てて、まずは背中を清めていく。背骨をなぞるように上から下へタオルを滑らせれば、立香はびくんと肩を跳ねさせて体を縮こめた。
 初心な反応を微笑ましく思いながら、肩から腕へ、臀部から脚へと体の背面を丁寧に洗っていく。さわさわと泡が潰れる音がするたびに、立香はくすぐったそうに息を漏らしてもぞもぞと身じろぎをしていた。
 ギプスが濡れてしまわないよう、右腕はビニールのカバーで覆われている。その根本までスポンジで擦り終わって、ガウェインは促すように立香の肩へ手をかけた。

「マスター、前も洗いますのでこちらを向いてください」
「えっ!? い、いや……! 前は自分で洗えるから! 迷惑かけるし、ガウェインはもう出ていいよ!」
「迷惑などと、私が言い出したことなのですから。最後まで面倒を見させてください――おや?」
「わあっ!? み、みちゃだめ、」

 肩越しに前を覗き込んで、ガウェインはごくりと息を呑んだ。彼の下腹部を見れば、うっすらと揃った控えめな下生えの向こうで、ふくりと陰茎が兆していたのだ。
 年若く無垢で性的な欲など感じさせない少年が、己の手で肉欲を煽られている。あまりの歓喜に目眩すら起きそうな心地になった。
 立香はあまりの羞恥に悲鳴をあげて、ガウェインの視線から逃れるように硝子の壁に体を押し付けた。そのせいで先端が擦れてしまったのか、ひくんと背中が震えている。少年のいじらしさに耐えられなくなって、ガウェインは彼の体を抱き腹の方へと腕を回しやった。

「ふふ、くすぐったくて勃ってしまわれたのですね。お可愛らしい」
「ほんとに見ないでって、あッ!? どこ触って、や、やめろよっ」

 泡のついた手で下生えをくしゃりとかき混ぜられ、立香は焦ったように体を捩った。しかし手負いの体で騎士の力に勝てるはずはない。ガウェインの体と硝子の壁に挟まれるような体勢になって、逃げ場は完全になくなってしまった。
 下生えを愛でていた指が、頭を擡げた陰茎をつうと焦らすように撫でる。他人に触らせたことなど無い場所を握りこまれ、立香はいよいよ悲痛な声をあげた。

「利き手がこれでは自分で慰めることも難しいでしょう。私が擦って差し上げますから、どうぞ出してください」
「なに言ってんの!? え、うそだろ……? ひぁ、だめだ、んァッっ!」

 泡のぬるぬるを塗りつけるように竿を扱かれて、立香はたまらず喉をのけぞらせた。右手でペニスを弄られて、もう片方の手はタオルを持ったまま腹や胸元を擦られている。体を洗っているとも愛撫をしているともいえる手つきで触れられて、混乱で頭がおかしくなってしまいそうだった。
 ガウェインは戸惑っている立香を両手で追い立てながら、無防備な背中に擦り寄り耳元へと顔を寄せた。

「もっと硬くなってきましたね、良い子です。そうだ、先っぽも剥いて洗ってしまいましょうね」
「ひっ、や、いやだ……! こわい、だめだよ、うあ゛っっ!」
「大丈夫ですよ、怖いことなど何もありません。ふふ、つるつるしてて愛らしいですね」
「は、ぁう、んんっ! やら、さきっぽだめ、ひうぁ!」

 壊れ物を触るように手を滑らせれば、秘されていた亀頭がぷっくりと充血して顔を出してきた。ああ、マスターはこんな所まで稚げでお可愛らしい。ガウェインはうっとりと目を細めながら、手加減もなしに無垢な少年を快楽へ追い詰めていく。
 よしよしと褒めるように先端を擽れば、一層高い声が漏れて腰が大きく震えた。立香は硝子に額を預けて、耳まで赤く染めながら荒い呼吸を繰り返している。だらりと垂れた舌が卑猥に思えて、思わず左手を伸ばしぽってりとした柔肉を抓んでしまった。石鹸の苦味を嫌がるように寄った眉すら悩ましげで、ガウェインは淫欲に取り憑かれたようにぐちゅぐちゅと手を上下に動かし立香を高みに押しあげた。

「あぁ、マスター……! ほら、イって、イクイクってしてください」
「ひんっ! あぁっ、ぐ、ァ……! あ゛っ、で、でちゃう、あっっ!」

 若い雄が快楽を我慢できるはずもなく、立香は導かれるまま騎士の無骨な手に精を放った。絶頂の時に噛まれた指がぴりりと痛んで、その甘やかな疼きに陶酔した吐息が漏れる。くふくふと浅い息を繰り返す肩に頬を預けて、ガウェインは「よくできましたね」と少年を優しく撫でてやった。



 案の定、と言われればそれまでなのだが、 あの日以来立香はガウェインのことを避けるようになってしまった。彼と話ができないのは辛くあるものの、ガウェイン自身にも『まずいことをした』という自覚があるため、自分からアプローチするのも憚られる。
 それでも彼の背中を見つけるたび追いかけてはいるのだが、どうやっても上手く巻かれてしまい切っ掛けすらなかなか持てなかった。
 ここ最近まともに聞けていない彼の声を思い出して小さくため息をつく。姿の見えない間でも、あどけない横顔が快楽に染まる様と硝子の小部屋に反響する甘い喘ぎは鮮烈に焼き付いていて、忘れることなどできるはずもなかった。
 打ち開けてしまえばあの日からずっとガウェインは、彼の痴態を思い出してシャワールームで自慰をしていた。いつも使っていたそこが一人ではやけに広く感じられて、無為な昂りはただ排水溝に流れていくばかりだ。
 しかしこのままでは任務にも支障をきたしてしまうかもしれない。立香は「怒ってはいない」と話していたが、嫌がっているところを強引に触れてしまったのは事実だ。改めて謝罪をしたほうが良いだろう。
 今朝から彼の姿は見かけていないが、管制室にならば一日の予定がまとめられているはずだ、それを確認して先回りをしておこう。そう決心して腰掛けていた椅子から立ち上がる。サロンの扉をくぐり廊下を曲がろうとしたその時――角の向こうに立っていた思わぬ人物に、ガウェインは目を丸くした。



 再び招かれた硝子の小部屋は未だからりと乾いていて、足元のタイルもひんやりと冷たかった。
 ガウェインはシャワーコックをひねり湯を出すと、手でちょうど良い温度に調節をする。そうして目の前にある背中にそうっと湯をかければ、こそばゆい刺激に立香はぴくんと肩を跳ねさせた。愛らしい反応に目尻を下げて、ガウェインは癖のある黒髪に鼻先をうめる。

「本当だ、貴方の香りが濃いですね」
「うわっ!? か、嗅がないでよ! 汗臭いだろ!?」
「いえ、とても好ましい香りですよ。……ずうっと、こうしていたいぐらいです」
「変態だ!!」

 思わず逃げようとする体を片手で引き寄せて、くんくんと深く息を吸い込む。本当なら香りの染みた首筋まで舐めてしまいたかったが、いよいよ逃げられてしまいそうなのでそれは我慢した。
 背中にあてていたシャワーで後ろ髪を濡らしていくと、ようやく立香はおとなしくなってガウェインに体を預けた。汗で濡れにくくなった髪を丁寧に湯で濯いで、しっとりとしたところを指で梳いていく。久方ぶりの刺激が心地良いのか、立香はすっかり体の力を抜いてされるがままになっていった。

 廊下で待っていた立香に「シャワーを手伝ってほしい」と言わた時は、今まで経験したことのない高揚でどうにかなってしまいそうだった。彼は「タオルで拭くだけじゃやっぱり気持ち悪くて」と理由を付け加えたが、そんな詭弁がガウェインに効くはずもない。その証拠に部屋へ向かう間も彼は緊張した面持ちをしていて、そのいじらしい姿は余計にガウェインの期待を煽り立てた。

 シャンプーを泡立てて髪を洗ううち、泡の塊がつうと彼のうなじを伝った。そのふんわりとした苦さまで舐めとってしまいたかったが、どうにか衝動を抑えてシャワーで流してやる。あまり使われていない様子のトリートメントもきちんと塗って濯いでやれば、彼の香りは綺麗に落ちてかすかな泡の匂いに塗りかわった。
 なんともったいないことだろう。ガウェインは落胆を押し隠しながら、今度は体を清めようとボディタオルを手にとった。
 しゃり、しゃり、ナイロンの繊維で石鹸が削れる音が微かに響いている。それを聞いた立香の背中は一層緊張したように縮こまって、まるで捕らえられた兎が食べられるのを待っているかのように見えた。
 ふかふかにした泡でこわばった背中をなぞって、総毛立つ様子を満足げに眺める。俯いている立香の前≠ェどうなっているのか――わかりきっているのに、ガウェインは赤く染まった耳に唇を寄せて、低い囁きを口にした。

「このガウェインをご指名なさったということは……期待、していらっしゃいますね?」
「ぁ、う……」

 みるみるうちに小さくなってしまった体をなだめるように、泡のついた手で腹筋を撫でてやる。そろそろと下生えのほうに手を滑らせていくと、立香はもどかしげに腿を擦り合わせてガウェインの方へ振り向いた。
 初めて正面から向き合った裸体を見て、ガウェインは喉が干上がるような気持ちになった。かすかに泡がついた下生えのもとで、愛らしいペニスが確かに兆している。気恥ずかしげに目を伏せながら口籠もる少年は、男の欲を滲ませているのにどこか清らかに感じられた。

「あ、あの、えっと……ひだりて、じゃ、うまくできなくて……」
「……ええ、わかっておりますとも。こちらもきちんと、洗って差し上げましょうね」
「ひぁ、そんないきなり……!」

 もじもじとしている立香を安心させるように微笑んで、稚い芯をすっぽりと包んでやる。大げさに震えた腰を嗜めるように軽く上下に扱いて、その合間にふくりとした陰嚢を片手で確かめた。膨らんだふぐりは心なしかずっしりとしていて、彼の「左手ではできなかった」という言葉を確かに肯定している。
 年若い彼が欲を放てず過ごすのはさぞかし辛かっただろう。ガウェインはそのがんばりをいたわるようにもったりと陰嚢を揉んでやった。
 焦らすようなかすかな刺激は物足りないのだろう、立香は唇を噛んで物欲しげに腰を揺らしている。ふくふくと硬さを増した幹の裏筋をつうと指でなぞれば、ようやく与えられた刺激に甘い声が響いた。

「あ、あっ、んぅっ」
「お上手ですよ、そのまま力を抜いていてください」

 崩れ落ちそうな腰を左腕で支えて、ガウェインは完全に勃起したペニスをくちくちと扱いてやった。自分よりも随分と薄い体をしているのに、立香はからだじゅうで快楽を訴えて健気に感じている。向き合ってまじまじと見つめる彼の痴態はこの上なくガウェインを昂ぶらせ、いびつな独占欲をじわりと満たしていく。自然と口角が上がった顔は信じられないほどに獰猛で、見たことのない騎士の表情に立香はゾクンと背筋を震わせた。
 先走りが出てきたおかげか、シャワールームに響く音がだんだんと粘着質になっていく。そのぬめりを借りて先端を剥いてやると、立香はひときわ大きな声で啼いて左腕でガウェインの肩にすがった。

「さぁ、今度は先を綺麗にしましょうね」
「ひあッ! ああッ、ぐりぐり、だめぇッ……!」
「どうして? 気持ちよくないのですか?」
「だめ、よすぎてへんになる……ぁっ!」

 つるりとした先端をよしよしと撫でてやると、立香は脚を震わせて完全にガウェインへ体を委ねた。肩にかけられていた左腕が、助けを求めるようにガウェインの体の表面を撫でる。ぬるついた腕で触れられるとまるで立香に愛撫されているように感じられて、かすかな快感に思わず眉がよった。
 そうしているうち――腰におりてきた手で己の怒張に触れられて、ガウェインは驚いたように目を見開いた。

「ぐっ……!? マ、マスター? どうなさったのです、貴方がこのような……」
「だって、がうぇいんもくるしそうだから……」
「はっ、あッ、私のものも、してくださると……?」

 己のものよりひとまわりもふたまわりも小さな手が上下して、ゆるゆると甘い快楽が腰を包む。赤く染まった顔で頷いた少年を見て、ちかちかと目の前が瞬くのを感じた。
 彼は私の浅ましい欲望を受け入れて、慰めを与えてくださる。
 ガウェインは衝動のまま立香の細腰を引き寄せて、己の怒張を稚げなペニスへと擦り付けた。たったそれだけの刺激、皮膚が擦れ合うのは同じはずなのに、お互いの性器をすり合わせるのは手で触れるよりもずっとずっと気持ちが良かった。

「ああ、マスター……! うれしいです、あいらしい、一緒に気持ちよくなりましょうね……!」
「ああッ、ん、はぅ、がえい……、きもちぃ、あ゛あっっ!」

 控えめに絡みつく指を包み込んで、彼の手を強引に上下させる。今よりも酷く、もっともっと気持ちよくさせたいと、ガウェインは腰に巻き付けていた左腕も使い立香を暴き立てた。
 体が崩れてしまわないよう、彼の背中を硝子に押し当てて脚の間に腿を入れ込んでやる。そのまま腿で陰嚢を押し上げてやれば、立香は一層高い声をあげてきもちいいと繰り返した。
 出しっぱなしにしたシャワーのせいで、泡などすべて流れ落ちてしまった。狭い小部屋に反響するのは水音と嬌声と、荒く繰り返す欲を含んだ呼吸ばかりだ。籠もった声は硝子で増幅され余計に大きく響いて、まるで耳からも快楽を流し込まれているようだった。

「はぁ、ぐッ……! ますたー、ますたー……! 貴方の手は、柔らかくて心地が良い、」
「んアッッ、やだよ、ひぅッ……! すぐ、いっちゃうから、ァ……」
「ええ、ええ……! 良いのですよ、裏も、擦って差し上げますッ!」

 腰を上下して亀頭で裏筋を刺激すれば、腿に触れたふぐりは射精したいとヒクヒクねだってくる。このまま快楽へすべてを委ねて、無垢な少年を貪り尽くすほかない。唾液と湯で濡れた唇は甘い声を絶えず零していて、ガウェインは衝動のままそこへ吸いつこうと顔を寄せた。

「ますたー、うあっ、りつかっ、私のりつか……!」
「だ、だめ、はぅっ……! きすはだめっ」

 しかし――初めて与えられた明確な拒否に、ガウェインは冷水を浴びせられたような気持ちになった。
 こうして体を委ねてくれたというのに、なぜ唇は咎められるのか。まさか、心は別の者にあると――他に思いを寄せる相手でもいるというのか。
 暗い嫉妬が一気に燃え上がり、思わず顔が歪んでしまう。立香はそんなガウェインを蕩けた瞳で見つめて、思い違いを嗜めるように首を横に振った。戸惑ったように眉を下げたガウェインをじっと瞳に映しながら、立香は蠱惑的に濡れた唇を微かに動かす。

「どぉ、して……きす、したいの……?」
「ッ、決まっております、貴方が好きだからだ……! りつか、すきです、お慕い申し上げております……! どうか私にご慈悲を、んッ!?」

 全てを言い終わる前に触れたやわらかな感触に、驚いて目を見開く。大きくした瞳の前では伏せられた黒い睫毛が揺れていて、そこでやっと立香の方から口づけをされたのだと気がついた。ふにゅんと唇を合わせたまま、あらわれた青色の瞳が嬉しげに細められる。その慈愛に満ちたゆらめきに、ガウェインは胸を掻き毟りたい衝動にかられた。

「じゃあ、いいよ。おれもすき、がうぇい、ひぐ、ふ、アぁッッ!」
「りつかッ、ああ……! 夢のようです……! すき、すきです……!」
「やぁッ、はげし……! あ゛ッ、あぅっっ、いく、でる……!」
「ええ、私もッ……! あいして、りつかっ……グ、ぐぅッ――」

 焦がれていた赦しを与えられて、その上に愛を囁かれて、歓喜と快楽で脳が焼き付いてしまいそうだった。ガウェインは何度も立香の唇を貪って、重ね合った怒張を夢中で愛撫してやった。蕩け合うような感覚はセックスそのもので、二人ともがただ快楽にふけり、直ぐ側に来ている絶頂へとお互いを追い立てていく。
 ひっついてしまいそうなほど寄せ合った腹に精を放ち合うまで、そう時間はかからなかった。

 もったりと粘い精が互いの腹筋を濡らし、流れるままにされたシャワーで洗われていく。
 くったりと脱力しながらも二人は口づけを繰り返して、今度は唇と舌で性を交わしていた。ちゅる、ちゅる、と水音を立てながら、清めたばかりの後ろ髪を梳いて、ガウェインは愛おしさを立香に知らしめた。立香も不自由ながら両手で己の騎士を抱擁して、伝えられた愛を受け止め赦しで包んでやる。
 硝子越しの痴態は部屋の明かりに照らされて、白い壁に淡い影を落としている。しかし中についた結露は二人の秘密を覆い隠し、匣のなかに熟れた吐息は閉じ込められたままだった。








(2020/12/22)




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